第78話 王宮の会議室
討伐令から二週間後の王宮の会議室。摂政であるエドワード王太子の元、三将軍、家令のジブリル、さらに、ブローリ公爵、カッツー王国の侯爵十一家が集まり、グラッセ公爵家討伐令の具体的な作戦会議が開かれた。
「本日集まってもらったのは、ミレーヌを打ち滅ぼすための算段である。まずはジュノイーから軍の編成などを説明してもらう」
王太子の軍の編成についてジュノイー侯爵が説明した。軍を三軍に分けてグラッセ公爵領に侵攻する。
東方面軍は、ジュノイー侯爵が指揮し、王都から街道沿いに進み領境の要衝である城壁都市ロサークを攻略する。想定される兵士数は、五万程度。
北方面軍は、ブローリ公爵が指揮し、グラッセ公爵領北側街道から攻め入り、要塞都市ガレルッオの攻略を目指す。想定される兵士数は、こちらも五万程度。
本軍は、東方面軍の後詰として、王国騎士団と戦場から離れた王国西側の貴族などで構成し、想定兵士数は三万程度。指揮はドガ将軍。
さらに、グラッセ公爵家の西側に位置するリアル辺境伯に対しても公爵領へ攻め入るように要請したこと。
最後に、要衝の都市を陥落後に、降伏勧告を行い、拒否した場合は、領都へ攻め入ることが伝えられた。
これらの編成は、一点を除いて王太子エドワードの意向、つまり、貴族を総動員してミレーヌを打ち滅ぼすというものに沿ったものであった。一通り説明を終えると、エドワード王太子が口を挟んだ。
「ジュノイー卿よ、余は出陣すると言ったではないか!」
「いいえ、殿下には王都から戦況を見守っていただきたく……」
「いや、それは出来ぬ! そもそもこの戦いは余が欲したものである。余が総大将となって、皆と共に攻め入りミレーヌを滅ぼすぞ」
「仮にも摂政殿下が、一貴族の討伐に参戦するのはいかがなものかと」
ジュノイー侯爵が控えめに諫言する。すると、今まで沈黙を保っていたブローリ公爵が口を開いた。
「殿下、ここは自重なさるべきかと。陛下が臥せている現状で、殿下が参戦すると、いったい誰が王都を守るのでしょうか?」
「そうであるが……」
「あと、ジュノイー卿に問いたい。北側諸侯は帝国など他国と接している。この戦いにこれだけの兵士を動員しては防備が疎かになるぞ」
「おっしゃることはわかりますが、ヴィスタ帝国は内乱から一年程度しか経過しておらず、まだ他国へ攻め入る体制を整えておりません」
ミレーヌの配下ゲオルクの元雇用主であるヴィスタ帝国は内乱終結後、現在の皇帝マテウス二世が、戦後の国内復興を最優先事項として取り組んでいた。
「では、その隣のバニア皇国はどうなのだ? こちらが手薄と見れば攻め入ってくる可能性は十分あるぞ」
「確かにそうですが……」
「卿の領土は王都に近いからそのように呑気に考えられるかもしれんが、我のように他国と接している諸侯は、まずは他国からの侵略に備えなければならん。それが分らんのか?」
「お、おっしゃるとおりです」
恐縮するジュノイー侯爵をしり目に、エドワードに向き直ったブローリ公爵は言った。
「殿下、そこでご提案があります。内戦という事態は他国にとって攻め入る好機となります。グラッセ公爵に対して、まずは、恭順の意を示せと使者を送るべきかと」
その言葉を聞いたエドワードは、両手を握りしめて言葉を発した。
「こ、公爵の言であっても、それは受けいれぬ」
その言葉を聞いたブローリ公爵は、目を閉じ少し首を振った。おもむろに目を開けエドワードを見据えて言い放った。
「承知しました。守備の兵を我が領地に残さなければなりませんので、今回参戦する兵士は少なくなることを予めお伝えします」
「それはならん!」
エドワードは顔を紅潮させて言い放った。
「我がブローリ公爵家は、ヨルゴ建国王から北の守りとなれと命じられました。殿下は、建国王ヨルゴ様のご下命を反故されるのでしょうか?」
「……」
建国王ヨルゴの名を出されたエドワードは、黙るしかなかった。
「ジュノイー卿、北側方面の指揮は分かったが、兵士は想定数よりも少なくなるだろう。作戦は見直さなくてもよいのか?」
ジュノイーは答えに窮して王太子に目線を向けた。先ほどから顔を紅潮させている王太子は、今更撤回することは出来ぬと思い、侯爵に代わって回答した。
「構わぬ。ジュノイー、多少兵士は減っても大丈夫だな?」
「は、は……ドガ将軍はどう思われますか?」
再度自分に振られたジュノイーは、ドガ将軍に答えさせようと問いただした。
「相手は一万足らず。こちらはそれ以上の兵士でかつ三方から攻め入ります。多少減っても必勝間違いないかと」
「わかった。ブローリ公爵、それでよいな?」
「殿下がそうおっしゃるなら異存ございません」
こうしてグラッセ公爵家討伐の編成会議は終わった。摂政と将軍以外の会議に出席者はこの戦いは容易ならざるものであることを予想したが、それを敢えて言うものはいなかった。
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