第43話 銃と騎士たち
ミレーヌがジャックとレベッカと密談した日から1週間後、サミールが興奮した様子で報告にやってきた。
「ミレーヌ様! 新型銃の大量生産体制が完了いたしました! これからは月産50丁で量産可能です!」
ミレーヌは満足そうに頷く。
「サミール、それで短剣の装着はどうなの?」
「ホマンとレーモンと詰めている最中で、もう少しでご満足いただける試作品をお見せできるかと」
「わかったわ。これから生産する新型銃には取り付けられないということでいいのね?」
「取り付けることは可能ですが、たぶん数回打ち合って短剣が取れる可能性があります。実践では使い物にならないかと」
銃を撃ったあとに、槍のように使えれば戦い方を変えることができるかもしれないと考えているミレーヌは、銃に短剣を取り付けることにこだわっていた。しかし、ここまで時間がかかるとは想定外であった。単に銃に短剣を取り付けるだけと思っていたが、強度等の問題は素人である彼女には即座に思いつかなかったのは致しかない。
「じゃあ、試作品が満足できるレベルになるまでは、現行の銃の製造に勤めなさい」
「承知しました」
サミールが退室すると、ミレーヌは呼び鈴を鳴らし、リサにジャックを呼ぶように命じた。一人になった執務室で、彼女は机に広げられたカッツー王国の地図を静かに眺めていた。鉄砲隊の編成は、彼女の長期的な計画のほんの一部に過ぎない。やがて、二刻の時が流れ、ジャックが入室してきた。
「お待たせして申し訳ございません」
「構わないわ。それで、ジャック、新型銃が月産50丁生産可能になったとさっきサミールが報告にきたの」
「そうですか!」
待ちかねたかのようにジャックは喜びの感情を声色に乗せた。
「それでね、ジャック、貴方にお願いがあるの。今の騎士団を鉄砲部隊を組み込んだ兵編成にしてほしいの。どのくらいでできる?」
「そうですな、腹案は練っていましたが、部下や銃に習熟した者たちにも相談しないといけませんので、概ね三週間程度いただければと」
「それで結構。直ちに編成案を作成しなさい」
ジャックは承諾の意を態度で示し、即座に執務室を退室していった。新型銃を大量に配備すれば、他家はもちろん数に勝る国王軍とも対峙できる。計画通り上手くいくとミレーヌは確信した。
◇◆◇◆
ジャックに騎士団の新編成の立案を指示してから二週間後、ジャックは硬い表情でミレーヌの執務室を訪れた。
新型銃を大量に集めた新編成の噂は、騎士団内にひろまり、騎士団員千名のうち、およそ五十名が新編成に反対し、辞めてしまったという報告だった。中には、元騎士団第一部隊長だったプロスペル・ボーガン子爵も職を辞し領地に戻ってしまった。
「五十名も辞めたの? なぜ?」
ミレーヌは眉一つ動かさずに尋ねた。
「伝統を重んじる騎士としての矜持とでもいうべきものでしょうか」
ジャックは苦渋の表情を浮かべた。部下たちの心情を理解しつつも、氷の公爵令嬢の命令は絶対であった。その葛藤がその表情ににじみ出ていた。
「そんなくだらないことに固執するのね」
(この世界も、結局は前の世界と同じ。非効率な因習に囚われた、愚かな人間ばかり)
ミレーヌは静かにため息をついた。
「それで、どうするの?」
「新たに補充をしないといけません」
ジャックがミレーヌに進言する。
「でも集めたところで、今までのような剣術を得意とした騎士とは違って、銃を扱わせるのでしょ? 期待していた騎士像と違うから、すぐに辞めるんじゃないの?」
「おっしゃるとおりですね……」
ミレーヌは人差し指で机を数回叩きながら、新たな思案を巡らせる。時計の長針が一つ動いた瞬間に、ミレーヌは目を見開き、ジャックに告げた。
「ちょっといい案が浮かんだわ。でも、レベッカとラウールの考えも聞きたいから、三人が都合よい時に私のところに来て」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
今後の励みになりますので、感想・ブックマーク・評価などで応援いただけますと幸いです。




