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第32話 銃と時計

「これが新しい銃ね……」


 ミレーヌは机に置かれた試作品の銃を眺めた。簡素ながらも機能美を感じさせるそれは、ホマンと鉄砲の生産に長けた鍛冶屋のサミールが持ち込んできたものだ。

 先月、彼女がホマンとサミールに命じたのは、射程を伸ばした銃、そして火打ち石式の新型銃の開発だ。後者は特に重要だった。今普及している火縄銃は、雨天に弱いという致命的な欠陥がある。火打ち石式、いわゆるフリントロック式が完成すれば、天候に左右されない強力な兵器を手に入れることができる。

 従前の方式である火縄にこだわるサミールを、説得するのに苦労したミレーヌだったが、実際に出来上がった試作品を持ってきたサミールの表情はまんざらでもない表情をしていた。

 サミールの報告では、射程は確かに五割増しになった。しかし、打石に衝撃を与えることで火花を散らして発射するフリントロック式は問題があった。


「ミレーヌ様のおっしゃるとおり、火打ち石式にしたところ、雨天でも打てるようになりました! 本当に素晴らしい発明です! 銃鉄を上げて、引き金を引けば、このように打ち下ろして火打石に当るのです! そして、火花が生まれて、銃身に入れてあった火薬が爆発するのです! 火縄を使うよりも簡単ですぞ! なんて素晴らしい仕組みなのでしょう!」

「だから、ホマン。それは私が先月、貴方(あなた)にも絵に描いて説明したことでしょ? それで何が言いたいの?」

「ああ、失礼しました。実は、ミレーヌ様。発射の際に、予期せず銃鉄が下がり、暴発する可能性があるのです」

「暴発?」

「はい、実際に試し打ちの段階で何度か確認されました」


 興奮したホマンを遮るようにサミールが報告する。しかし、ホマンが言葉を続ける。


「サミールよ、くだらないことを言ってはいかんぞ。あ、ミレーヌ様、そのような些細な欠点はすぐに解消できますぞ! そうですな、あと二年、いや一年くらい頂ければ、その欠点を克服する素晴らしい案をお持ちしますぞ」

「そんなに悠長に待てないのよ」


 ホマンは優秀な科学者ではあるが、彼にとっては、欠陥は新たな探求の対象でしかない。そのことに、ミレーヌは苛立ちを覚える。いくら性能が良くても、使い物にならなければ意味がない。

 ホマンがミレーヌの言葉を無視して興奮しながら演説し続けるなかで、思考を巡らせるミレーヌ。彼女の視線が、ふと壁掛け時計を捉えた。精巧な機械仕掛けのそれは、正確に時を刻んでいる。ミレーヌは、立ち上がり時計の元へと歩み寄る。ホマンは相変わらず演説をしているが、サミールが怪訝そうな顔でミレーヌを見つめる。


「サミール、この時計を壁から取りはずして、机に置いて」


 サミールが時計を壁から取り外し机に置く。ミレーヌはその裏蓋を開けた。複雑に絡み合う歯車と、繊細なバネの動きをじっと見つめる。すると彼女の顔に、確信めいた光が宿った。


「今すぐ、レベッカを呼んで」



 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
信長と薬屋のひとりごと。 同時に近代武器の開発ですか。 ひとたまりも無いですね。
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