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第31話 銀と金

『ペタン子爵領反乱の件、重税に耐えかねた領民が一斉蜂起したことが原因と判明。当主のアレクサンド子爵は領民の反乱を抑えきれず、領都の館を放棄し、領地の砦に籠城。反乱発生から四日後、臣、グラッセ公爵家当主ミレーヌは、大叔父アレクサンド・ペタンの窮地を救うべく、ジャック・レルネ騎士団長に命じ、子爵領へ派兵を決定。ジャック騎士団長の的確な指揮により、子爵領全土で発生した反乱を一週間で鎮圧した。残念ながら、アレクサンド子爵当主やその家族は、無残にも斬殺遺体として発見。暴徒化した農民によるものと推測される。臣、グラッセ公爵家当主ミレーヌは、やむを得ず、治安維持の継続のため子爵領を接収する。以上、ご報告いたします』


 執務室にて、レベッカが作成した国王への報告文書を確認し、ミレーヌは許可を出した。


「国王への親書は、それでいいわ」

「承知しました。いつ発送しましょうか?」

「すぐに出して。あと、ラウールを呼んでくれないかしら? 貴女(あなた)も理解してほしいから同席して」


 レベッカは一旦退室し、程なくしてラウールを伴って執務室へ戻ってきた。


「お呼びでしょうか?」


 ラウールの問いに、ミレーヌは本題に入る。


「ラウール、アッシ銀山採掘量の報告書は目を通したかしら?」

「はい、承知しております」


 アッシ銀山では、先月途中から新しい採掘法である灰吹き法を本格運用開始していた。既に前月の二倍以上の採掘量を達成している。


「それでね、アッシ銀山の銀を市場へ流通させる量を今月から徐々に減らしてほしいの。そうね、一年で半分くらいに」

「え? なぜでしょうか?」


 レベッカが思わず問いかける。すると、ラウールがニヤリと笑って答えた。


「わかりました。銀の価格を吊り上げるのですね」

「そうよ。当家が新しい採掘法を試していると、既に国内では噂になっているわ。目ざとい商人は、将来の算出量が増加すると見ている。そして、銀の買い控えで、既に銀の価格が下落している。そうでしょ?」

「はい、おっしゃるとおりでございます。さらに、当家で増産した分の銀を市場にすべて流通させると、さらに価格は下落すると思います」

「だから市場への供給量を減らすの。そして新しい採掘法がうまくいっていないという噂を流して」


 ミレーヌの言葉に、ラウールの目が細くなる。


「なるほど、その噂も相まって銀の価格は高騰いたしますな」

「一年後に、その高騰のタイミングを見て、それなりの量の銀を市場に一度に供給して利益を得る。そして、新しい採掘法がうまくいったと公表するわ。貴方(あなた)も今のうちに私財で銀買い占めて利を稼ぎなさい」

「ありがとうございます。それで市場に流通させない銀はいかがしましょうか?」

「半分は将来の貨幣改鋳のために保管。残りの半分は、新たな武器の開発、軍事改革、そして国王の家臣の調略に使うわ。あと、王都など主要都市で、銀を金に交換してきてほしいの。それも徐々にね。他に、困窮している貴族が持っている金細工や金の調度品を銀で支払って買い占めて」

「金を買い占めるのですか?」


 レベッカの問いに、ラウールは説明した。アッシ銀山が国内の銀産出量の三割を占めていたが、新しい採掘法により五倍以上の銀を供給できる見込みであること。そうなれば、国内の七割もの銀を供給する途方もない銀山となる。ミレーヌの策で一時的に銀の価格は暴騰するが、供給量を調整したとしても、いずれは下落することになる。よって、将来価格が下落する銀を今のうちに使い、金を買い占めるのだと。

 その説明に満足した表情を浮かべたミレーヌは、二人に宣言した。


「そう、金の買い占めこそ、私がこの世界を思いのままに操るための布石よ」


 その宣言を聞いたレベッカは、静かに呼吸を整えた。公爵夫妻を葬り、武力を用いず公爵家を掌握した陰謀、介入した親戚貴族全員を巧妙に潰した策謀、そして今、この国の経済を根底から揺るがすような壮大な計画。それら全てを、若干十七歳のミレーヌが立案している。彼女の知性は、もはや常識を逸脱していた。畏怖の念と共に、レベッカの心に、静かな疑問がまた生まれる。


 (私の主君は、一体何者なのだろうか?)


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
現代なら当然の考えでも中世では難しい。 金の採掘量は銀の比ではないくらい厳しい量。 今のうちに金を取得しておき流通を止めれば銀よりももちろん金は更に高騰。 当時の貨幣が現物であることを考えると国の信頼…
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