第3話 狂気の設計図
数時間にわたる両親からの罵声と失望の言葉は、ミレーヌの心を揺るがさなかった。耳障りな雑音を聞き流し、ようやく解放された彼女は、自室に戻ると静かに扉を閉める。扉が閉まる音は、まるで古い世界の終焉を告げる、乾いた音だった。
豪華な調度品に囲まれた部屋は、彼女にとって、これから世界を解体し再構築するための「作戦室」に過ぎない。ベッドに腰掛けると、ミレーヌは目を閉じた。頭の中では、精巧なシステム設計図が描かれていく。
(第一段階。公爵家の完全掌握)
両親は、もはや彼女にとって排除すべき「無駄な変数」。直接殺害するような稚拙な手は使わない。周囲に疑念を抱かせることなく、確実に、彼らを亡き者とする。
(そして、公爵家の財政状況、家臣の忠誠心、そして隠された負債まで、すべてを徹底的に洗い出す)
ミレーヌは、まるで前世の部下に指示を出すかのように、心の中で呟いた。前世のサプライチェーンマネージャーとしての知識は、公爵家という名の「経営システム」を掌握するために最適だった。具体的なプロセスを、頭の中で組み立てていく。
(第二段階。自領の富国強兵)
公爵領は、腐敗した貴族たちと無能な代官によって、そのポテンシャルを活かしきれていない。この領地を、ミレーヌの「覇道」を支える強固な基盤へと変えよう。
彼女の脳裏に、非効率なまま放置された農奴の顔が浮かぶ。彼らに自由を与えることなく生産性を最大限に引き出すための方策が具体化していく。
「生産量に応じたインセンティブ制度を導入すれば、最大限の労働効率を引き出せる。それは、駒により高い価値を持たせるための最適化に過ぎない」
同時に、前世の知識を応用し、火器や技術を導入することで、領地の経済と軍事力は飛躍的に向上するだろう。
(第三段階。有力貴族との連携と分断)
王家を打倒するには、同盟者が不可欠。王都の貴族たちを「利用可能なリソース」として分類する。彼女の基準は、家格や血筋ではない。能力と忠誠心、そして利用価値のみ。
(王家への不満を抱える者。自らの能力を正当に評価されたいと願う者……)
ミレーヌは、そういった者たちを見つけ出し、甘い言葉で懐柔する。その一方で、王家への忠誠が厚い者は、分断や陰謀によって弱体化させていく。
前世では、単なる無力なOLであったが、この世界では違う。公爵家令嬢という立場を生かし、力を得ることができる。今度こそ完璧に成し遂げるだけだ。
(最終段階。王政の打倒と新たな世界の構築)
十分な軍事力、経済力、そして協力者という名の「駒」を得たなら、王都へ進軍する。私が目指すのは、単なる王位の簒奪ではない。無能な者が支配する「システム」そのものを破壊し、能力のある者だけが支配する「最適化された世界」を再構築することだ。そして、その頂点に私が君臨する。
ミレーヌは、冷たい石の床の感触を足の裏に感じながら、立ち上がった。窓の外には、暗く静まり返った公爵家私邸の庭が広がっている。彼女は一人呟いた。
「私の計画を邪魔する者は無論、役に立たない者も、容赦なく粛清する」
彼女の狂気の覇道は、この自室から、静かに、だが確実に、その第一歩を踏み出した。
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