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第28話 埋まるピース

 三人の貴族が去った日の夜、執務室の椅子に座るミレーヌは深く思考していた。


 今回の件で、最も厄介なのはマチュー侯爵だ。彼さえ除けば、古狸のアレクサンド子爵やルドヴィック男爵などは小物。どうにでもなる。

 やはり、マチュー侯爵を殺すしかないか。しかし、暗殺では、私が疑われる可能性が極めて高い。私と無関係の誰かに、狐を殺させる? そんな者が容易に見つかるわけがない。

 病死に見せかけるか? マチュー侯爵家の家臣を調略して毒を盛るという手もある。だが、それには時間がかかりすぎる。即効性の毒を使うのはどうか? これも不審死として疑われかねない。もし、残った古狸達が騒ぎ立てれば、他の貴族の間に不穏な噂が広がるだろう。三人同時に殺害は極めて困難であり、仮に成就しても、私への疑念を深めるだけ。

 では、マチュー侯爵を殺さずに仲間に引き入れるのはどうか? それは無理だ。あの狡猾な狐は、国王派の重鎮という立場を最大限に利用している。彼を仲間にするには、それを上回る地位を提示しなければならない。今の自分には、そんなことは無理だ。それに、あのような狐を仲間にしたところで、いつ寝首を搔かれるか分かったものではない。最善の策はどれなのか……。


 思考が堂々巡りになる。急いた気持ちにはやる氷の公爵令嬢は改めて事態を俯瞰した。やはり、情報が圧倒的に不足してると思ったミレーヌは、机の上のベルを鳴らす。すぐに専属メイドのリサが入室してくる。


「リサ、至急レベッカ、ラウール、リナを呼んでちょうだい」

「かしこまりました」


 程なくして、三人は執務室に揃った。


「あなたたち三人に、今すぐ調べてもらいたいことがあるわ」


 ミレーヌは、マチュー侯爵ら三人の貴族に関する、弱みや実情、あらゆる情報を調べるよう指示した。できうる限り早く、と念を押した。


◆◇◆◇


 二週間後、ミレーヌの執務室には、三人から上がってきた報告書が積まれていた。険しい表情のミレーヌは、それらを一枚一枚丁寧に読み込んでいく。ミレーヌの頭の中には、アレクサンド子爵とルドヴィック男爵の始末の方程式の解が明確に生まれた。しかし、マチュー侯爵の始末の方程式は未だに解けない。何度も、マチュー侯爵に関する報告書を読み返す。やがて、彼女はラウールに問いかけた。


「そう、あの狡猾な狐は、ギャンブル好きなのね?」

「はい、ミレーヌ様。マチュー侯爵のギャンブル好きは、貴族の間でも有名な話です」

「私は知らなかったわ」

「それは、ギャンブルをなさらないからでしょう」

「ギャンブルのルールくらい知ってるわよ。でもゲームなど興味ないから……」


 ミレーヌは少し思案に沈んだ。やがて、ふと目を開く。アイスブルーの瞳に、かすかな光が宿っていた。


「ラウール、その狐は、具体的に何のギャンブルが好きなの?」

「はい。ギャンブルというものは、全てなさるようですが、ここ数年は貴族の間で流行っているカードゲーム、それもポーカーゲームでは、無類の強さを誇っているようです」

「……そう、ポーカーゲーム……カードゲーム……」


 ミレーヌの頭の中で、何かを思い出したかのように、はっと目が開かれた。彼女は顔を上げ、リナに問いかける。


「そういえば、リナ。かなり前にお願いした、例の男。見つけた?」

「ああ、あの貴族のボンボンね。探すのが結構大変だったけど、一昨日見つけたよ。凄腕のアタシだから捕まえられたんだから、感謝しろよ」


 リナが腰に両手を当てながら自慢げに返事をした。


「捕まえた後は、確か、ラウールのおっさんのところにいるんだっけ?」


 リナの気さくな問いかけに答えるラウール。


「私の方で保護してますが、連日、恨み言をつぶやいており、世話する者も気味悪がってます。それで、ミレーヌ様、かの者、何かにお使いになるのでしょうか? あ……わかりました! ミレーヌ様!」


 何かに気が付いたラウールを無視し、ミレーヌは、まるで様々なピースが全て当てはまったかのように、はっきりと頷く。彼女の顔には、確信に満ちた微かな笑みが浮かんだ。


「そういえば、ラウール。あなたの持っている屋敷で、貴族を集めてカードゲームを開催してると聞いたけど、今もやってるの?」


 ミレーヌの意図を理解したラウールは、若干の笑みを浮かべながら答える。


「はい、闇の社交場のようなものでしてあまり公にはしておりませんが。しかし、負けが込むと多額のお金を借りていただけるので、いいお客様ばかりお集りいただいております」

「今度、その屋敷を貸してくれない? 貸し切りで」


 ミレーヌの表情から険しさは消え去った。ラウールに指示した彼女の口元ははっきりと笑っていた。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

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