シードに還る
この物語は、
「愛を失ったことにすら気づかない世界」で生きる人々の話です。
人類は進化の果てに、感情というものを“無駄”と断じました。
喜びも悲しみも、誰かを想うことさえも、最適化の邪魔になると。
けれど、本当に“不要”だったのでしょうか?
私たちは何を代償に、便利さと静けさを手に入れたのでしょうか。
主人公たちは、そんな無感情の世界で、
ふとした“違和感”に気づき始めます。
誰かの痛みに心が動いたとき。
あたたかい涙の記憶が蘇ったとき。
そこには、もう忘れてしまったはずの“人間らしさ”が残っていました。
もし、あなたの世界もまた「何かを失っている」なら——
この物語の断片に、ほんのわずかでも“あなたの光”が映れば幸いです。
― Prologue ―
かつて、ここは「地球」と呼ばれていた。
青く、息づき、人々の笑い声が夜を越えて響く、あたたかな星だった。
だが、それはもう遠い記憶だ。
いや——記憶ですらないのかもしれない。
今、この星に名前はない。
人間が、自らの手で踏み荒らした場所。
命を延ばすために、心を切り捨て、効率と安全を選び続けた果ての、静かな断末魔。
人々は感情を失った。
喜びも、怒りも、愛も、すべて「不安定要素」として除かれた。
痛みさえも、数値で測られ、薬で黙らされた。
けれど。
この世界はまだ、終わっていない。
地の奥深く、ひとつの「種」が眠っている。
それは、人間が失ったもの。
けれど誰も、それを失ったことさえ、知らない。
彼女は目覚める。
それは、希望か。災厄か。
それすらも、もう誰にもわからない。
「これは、失われた“愛”の話だ。」