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兼業農家冒険者のスローライフ(?)な日々~農業滅茶苦茶キツいんだけど、誰にクレーム入れたらいい?~  作者: 晩夏ノ空


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87 ハンスの調査結果


「エセじいの言う通り、実はここ最近、みんなに頼んでちょっとした調査をしててな」

「みんな…?」

「あー、リンと、あとウォレスとかデニスとか」


 ハンスが名前を出すと、アーロンは軽く目を見開いた。一体いつの間に、という疑問が透けて見える顔をされ、ハンスは事情を説明する。


「上エーギル村と下エーギル村が仲違いしてるってのは、こっちに帰って来てすぐ知ったんだけどよ、なーんか変だとずっと思ってたんだよ。──具体的に『何が』おかしいのか理解したのは、ちょっと前、魔物の生息状況の調査をしてて、坑道で倒れたデニスをトレ=ド=レントのところに担ぎ込んだ時だな」


 休めと言われたのに働こうとするデニスにリンがブチ切れて『仕事と身体なら、身体の方が大事に決まっている』と説教した後、こう言った。


 ──それにその件、全体的におかしいです。私、下エーギル村の食堂とかちょくちょく利用しますし、あっちでも色んな話を聞きましたけど、はっきり言って()()()()()()()()()()()気持ち悪いんですよ。


「あ…」


 リンがちょっと赤くなり、視線を彷徨わせる。感情のままにぶちまけたことをハンスに再現されるのが恥ずかしいのだ。

 が、その場の面々は顔色を変えた。


「お互いが、被害者面…?」

「どういうこと?」

「あー、つまりだな。オレが聞いた話を総合すると──仲違いの一番最初、事の発端になったと認識されてる出来事ってのが、()()()()()()()()()()()なんだ。まあリンも突っ込んでたことなんだが」


 実は昨日、下エーギル村の食材で作った食事を上エーギル村の住民たちに配っている時にやって来たウォレスやデニスは、自分の調査結果をメモ書きにして、こっそりハンスに渡してくれていた。

 そのメモをハンスがきちんと読めたのは夜になってからだったが──書かれていたのは、ある意味ハンスの予想通りの内容だった。


「まず、上エーギル村で言われてるのは──下エーギル村の先代村長、つまりマークの父親が、上エーギル村のことを『魔石鉱山が出来たからって調子に乗るな、お前らは慎ましくヤギと羊でも飼ってりゃいい』って暴言を吐いて、それに対してアーロン村長が『上エーギル村はこれから発展する。落ち目の下エーギル村とは違う』って感じで応戦した、って話だろ?」


 ハンスが周囲を見渡すと、エリーが若干気まずそうに頷き、アーロンも眉間にしわを寄せつつ首肯した。

 今更蒸し返すのを少々申し訳なく思いつつも、ハンスは言葉を続ける。


「で、下エーギル村じゃどうなってるかっつーと──上エーギル村に魔石鉱山が出来たことでアーロン村長の意識が変わって下エーギル村を見下すようになって、マークの父親とアーロン村長が仲違いして、今でもそれが尾を引いてるって言われてんだ」


「…ん?」

「……?」


 奇妙な沈黙が落ちた。


 真剣な顔で眉を寄せるゲルダは──その実、話の内容を理解していないのは明白なので除外するとして、アーロンやエリーは困惑気味に顔を見合わせている。


 ハンスはパッとテーブルの上で両手を開き、肩を竦める。


「つまりだ。上エーギル村じゃ『下エーギル村が最初に馬鹿にしてきたから』、下エーギル村じゃ『上エーギル村が威張り散らすようになったから』って感じで、お互いがお互いに『相手のせいだ』って言ってんだよ。おかしいだろ? ──で、問題はここからだ」


 開いた両手を再び組んで、ハンスは若干身を乗り出す。



「この話──()()()()()()()()()()?」


「……え」


「話に食い違いがあるってことは、どっちかが嘘をついているか誤認してるか──まあどっちも間違ってるって可能性もあるが。少なくともどちらかは『真実ではない』ってことになる」


 ハンスが指摘すると、エリーがちょっと待って、と声を上げた。


「それはそうなんだろうけど…でも、嘘をついてるなんて」


 (とが)めるような視線に、ハンスは苦笑する。


「あー、スマン。あくまで一般論だ。いちいちこんな面倒で悪質な嘘をつく奴は上エーギル村にも下エーギル村にも居ないってのは、オレもよく知ってる」

「では、何故…」


 アルビレオが呟く。

 ハンスはアーロンに視線を向けた。



「その答えは、アーロン村長が知ってるはずだ」


「!?」



 その場の全員の視線がアーロンに集中する。

 アーロンは目を見開き、困惑しきりの表情でハンスを見返した。


「ハンス、それはどういう…」

「アーロン村長。思い出して欲しいんですが──例の『魔石鉱山が出来たからって調子に乗るな、お前らは慎ましくヤギと羊でも飼ってりゃいい』って発言は、()()()聞いたんです?」


 その答えを、ハンスは知っている。ウォレスがくれたメモに書いてあったのだ。

 だがこの場では、アーロン自身に答えてもらうのが重要だった。


(思い出してくれるといいんだが…)


 半ば祈るような心地で待っていると、アーロンは視線を彷徨わせ、確か…と呟いた。



「ヤツがそう言っていたと…当時魔石取引の担当だった()()()()()()()んじゃ」


「──!」

「そ、それって…!」



 その意味を瞬時に察したのは、エセルバートとアルビレオとリン。

 エセルバートとアルビレオは目を見開き、リンはガタッと音を立てて腰を浮かせる。


「本人から聞いたんじゃなくて、()()()()()()、ってことですか!?」

「あ…!」


 リンの言葉に、エリーも目を見開いた。ハンスは大きく頷く。


「そういうことだな」


 そこがはっきりすると、その後の流れも見えてくる。

 つまり──


「アーロン村長。もしかしてなんですが、それを聞いて激怒して、次の会合の時に下エーギル村の先代村長に『上エーギル村はこれから発展する。落ち目の下エーギル村とは違う』…とか言ったんじゃないですか?」

「……む」


 アーロンが曰く言い難い表情で沈黙した。その態度はどう見ても肯定だ。


 元々、よく言えば意志が強く、悪く言えば頑固と評判だった2人である。顔を突き合わせて開口一番にそんな発言をすれば、お互い説明を求めることなく瞬時に仲違いするのは当然だった。


 ──その流れをお互いの村の立場で切り取れば、上エーギル村にとっては『下エーギル村の村長が先に暴言を吐いた』という話になり、下エーギル村にとっては『上エーギル村が突然下エーギル村を馬鹿にするようになった』という話になる。

 事の発端が商人からの又聞きだった、などという些末(さまつ)な情報は都合よく削除されて。


 ハンスの説明に、ふうむ、とエセルバートが呻いた。


「なるほど、とてもよくできた流れじゃの。ありもしない話一つで、上エーギル村を孤立させることに成功したわけじゃな?」

「その通り。──まあ実際には、もうちょっと手の込んだ仕掛けだったと思うが。何せ商人の最大の武器は情報だからな。アーロン村長だけじゃなくて、上エーギル村下エーギル村問わず、住民たちにあることないこと吹き込んだんだろ。それこそ、仲が良かった相手に話し掛けることすら躊躇うようになるくらいにな」

「そんなことって…」


 エリーが静かに青くなる。村の住民にはそんなえげつない情報戦を繰り広げる者は居ないため、理解はできても納得できないのだ。


 ハンスはナターシャに視線を向けた。


「──ってのがオレの仮説なんだが、ナターシャ、どう思う?」


 マークとナターシャには、ここに来る前にざっと話をしてある。ナターシャは即座に頷いた。


「十分、有り得る話だよ。特に規模のデカい商会にとっちゃ、自分にとって都合の良いことだけ相手に吹き込むなんて朝飯前だ」


 商談の際、相手に提示する情報を取捨選択するのは当然のこと。上エーギル村のケースはその延長線上にあるだけだ、とナターシャは説明し、ぼそりと付け足した。


「…同じ商人って立場からしても、とんでもなく胸糞悪い話だがね」


 声が殺気立っている。

 ハンスはゴホンと咳払いして話を続けた。


「あー、そういうわけでだ。仲違いの原因は魔石取引に関わる商人による情報操作。これはほぼ確定でいいと思う。──で、それじゃあなんで上エーギル村と下エーギル村の仲が険悪になるよう商人が仕組んだのか、って話なんだが…」


 その場の全員を見渡し、ハンスは指を一本立てた。



「上エーギル村が、物理的にも心理的にも下エーギル村との繋がりを断って孤立するように──もっと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()ようにしたかったんじゃないかと、オレは踏んでる」








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