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兼業農家冒険者のスローライフ(?)な日々~農業滅茶苦茶キツいんだけど、誰にクレーム入れたらいい?~  作者: 晩夏ノ空


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122/128

122 魔物寄せ


「なんだと!?」


 ハンスは顔色を変えた。


 アルビレオの情報から、グリンデルとヴァルト、そしてならず者のうち何人かは持っているだろうと予測はしていた。だがまさか、ならず者ではなく首魁本人が予備を持っているとは。


「はははは! 次善の策は常に用意しておくものなのですよ!」

「偉そうに言ってんじゃねぇ! 手前ェも巻き込まれんだぞ!?」


 自殺行為としか思えない。ハンスの突っ込みに、バオホはにやりと笑う。


「私は常に最高品質の魔物除けを身にまとっていますからね。心配は無用です」

「野郎…!」


 見れば、周囲のならず者たちもニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。

 作戦の内容が内容だ。全員、飲み薬なり塗布薬なり、何らかの魔物対策はしているのだろう。が。

 モクレンが、馬鹿だな、と鼻先にしわを寄せる。


《ご禁制の薬って、辺り一帯の理性の低い魔物を凶暴化させて引き寄せるんだろ? フツーの魔物除け()()()でどうにかなるわけねぇじゃん》

「…は?」


 バオホが呆けた声を漏らす。

 瞬間。



 ──ガアアアッ!



 激しい咆哮と共に、バオホの斜め後ろの茂みから四つ足の影が飛び出してきた。茶と緑のまだら模様──フォレストウルフだ。


「…っ!?」


 バオホが振り向いた時、鋭い爪牙は目の前にあった。


「やあっ!」


 リンの声が響く。


 バオホの顔面がえぐり取られる寸前、フォレストウルフの左目に投げナイフが突き刺さった。

 ギャンと悲鳴を上げたフォレストウルフは、体勢を崩してバオホにぶつかり、一緒くたに地面に転がる。


「ぐおっ!?」


 ハンスはそこに駆け寄り、剣でフォレストウルフにとどめを刺す。

 さらに飛び掛かって来た別の個体を斬り捨て、背後に向かって叫んだ。


「魔物どもが来るぞ! 全員、防衛体制! お互いのフォローを忘れるな!」

「おう!」

「分かった!」


 万が一、魔物寄せの薬を撒かれてしまったら、腕に覚えのある面々がチームで対処する。

 予め打ち合わせていた通りに、村人たちが少人数のグループになって散開していく。その動きは、大規模な掃討を行う冒険者にも引けを取らない。


 ただし──その手に持つのは剣でも盾でも槍でもなく、農具や伐採道具である。


「な、なん…」


 状況に取り残されたならず者3人が動揺もあらわに周囲を見渡し、直後、二尾ネズミにふくらはぎやらすねやらをかじられて悲鳴を上げる。


「い゛っ…!?」

「なんだ、くそっ!」

「痛え──!」

「お前ら動くな!」


 それを救ったのはジョンの父親のチームだ。

 草刈り鎌とハンマーで人間の足にかじりつく二尾ネズミだけを瞬時に始末し、さらに森から向かって来る個体を次々狩っていく。


 ポールが小さな笛を吹いた。長く尾を引く甲高い音は、ケットシーたちに『防衛体制発動』を知らせる合図だ。


 草刈り鎌に(すき)にフォークに手斧にナタにスコップ、果ては身の丈ほどの長さの丸太まで、大変バラエティーに富んだ物を手に、次々魔物を狩る村人たち。まともな武器を持って戦っているのは、長剣を手にしたハンスと短剣を振るうリンくらいだ。


「リン、行ったぞ!」

「はい!」


 その2人も、傍から見ると動きがおかしい。


 二尾ネズミやアクアバットといった小型種からフォレストウルフのような中型種まで、全て急所を一撃で貫いて始末している。

 あまりの状況に、ならず者3人は後退り──地面に倒れる者たちに(つまず)き、尻餅をついた。

 咄嗟に身体の両脇についた手のひらに、べったりとオレンジ色の粘液が付着する。


「ヒッ…ぎゃああああ!」

「うるせえ!」


 自爆して悲鳴を上げる3人に、ハンスは怒鳴る。なかなかに理不尽である。


《ハンス、来るぞ!》


 モクレンの警告が飛んだ。


 直後、横手の茂みから巨大な黒い影が突進してくる。

 落とし穴の中から悲鳴が上がった。


「ワイルドベア…!?」

「嘘だろ!?」


 今、魔物寄せの薬が撒かれた地点の一番近くに居るのはハンスだ。真っ直ぐに向かって来る大型魔物を、ハンスは剣で迎え撃った。



「しゃらくせえ!!」



 大きく開いた口に切っ先を深々と突き入れ、さらに斜め上へ向かって斬り上げる。

 骨を断つ重い感触とともに、ワイルドベアの口が──いや、頭部が、半ばまで真っ二つになった。


 ワイルドベアはその勢いのままハンスの脇を通り過ぎ、血しぶきを上げながら前のめりに倒れる。

 その鼻面の先は落とし穴の端だ。濁った赤い目を至近距離で見た男が、ヒッと息を呑む。


「流石ですハンスさん!」

「おう! ──まだ来るぞ、油断すんな!」

「はいっ!」

「おお!」


 その言葉通り、さらに2体のワイルドベアが姿を現す。ならず者たちが悲鳴を上げるが──


「──フン!」


 1体は、ポールの投擲(とうてき)した鋤が上あごを貫通し。


「オラァ!」


 もう1体は、ジョンの斧で頭蓋をカチ割られ、それぞれ一撃で絶命した。


「………」


 ならず者たちは言葉もない。

 そこに、数頭のハイランドシープが駆けて来る。


《来たわよ! 小物は任せなさい! ──あんたたち、やるわよ!》

《ヘイッ!》

《合点!》


 メリーさんの頭から木の枝に飛び移ったツバキが号令をかけると、同じくハイランドシープの頭から木の枝に飛んだケットシーたちが森の中めがけて次々と魔法を放つ。


 途端に森から出て来る小型魔物が減った。ケットシーは気配の察知能力が高い。直接見えない位置にいる相手にも魔法を命中させることができるのだ。

 ケットシーの魔法では処理できない中型以上の魔物は次々飛び出してくるが、


「オラァ!」

「やあっ!」


 ベエェェェ!

 メエェェェ!


 ハンスとリンと村人たちが斬り、殴り、蹴り飛ばし、ハイライトシープたちが突進して手当たり次第に弾き飛ばし、討伐していく。


 魔物寄せの効果時間と効果範囲は有限──一昨日アルビレオから教えられた情報が、ハンスたちの支えだった。

 効果が切れるまで粘るか、効果範囲内に居る狂った魔物を全て倒し切ればハンスたちの勝ち。

 普通に考えて絶望的な条件だが、ハンス捜索のために山狩りを実行しようとしていた村人たちなら不可能ではない。








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