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兼業農家冒険者のスローライフ(?)な日々~農業滅茶苦茶キツいんだけど、誰にクレーム入れたらいい?~  作者: 晩夏ノ空


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107 『生きた』ウロコ


「双方向で話ができるのか」


 アルビレオが呟くと、いかにも、とウロコから返答がある。


《そちらの声も聞こえている。必要な時以外は大抵寝ておるのでな、常に、ではないが》


 送受信できる端末であっても、受信者側が寝ていたら当然伝わらない。

 エーギルの説明に、ハンスはさらに補足する。


「エーギルは大体、5日寝て2日起きる、くらいの周期で生活してるそうだ。エーギルが起きている時は水の魔素の発生量が増える。目覚めたタイミングで知らせてもらえば、坑道から退避できるだろ?」


 ドラゴンの寿命は長く、その生活サイクルも相応に長い。エーギルの場合、非常時にはいくらでも起きていられるが、平時は寝ている時間の方が長いのだという。

 その話を聞いた時、『ケットシーみたいだな』とハンスが思ったのは秘密である。


 ともあれ、エーギルが起きたら水の魔素の発生量が増えると言っても、その増えた分が上エーギル村の鉱山まで到達するのには少々時間がかかる。その間に、坑道から鉱夫を引き揚げさせて出入口を封鎖すればいい。

 採掘再開のタイミングも、エーギルが寝る前に知らせてもらえれば、見極めるのは簡単だ。


 ハンスの説明に、ちょっと困った顔をしたのはエリーだった。


「それすっごく助かるとは思うけど…例えば夜中とかにそのお知らせが来たら大変じゃない? 誰が対応するの?」

「あー…」

「…あと、突然話し掛けられたら分かってても腰抜かしそうですよね、みんな…」


 リンもぼそりと呟いた。


 何せ相手はドラゴンである。上エーギル村の人々がビビるのは容易に想像がつく。

 ならば、と提案したのはエーギルだった。


《起きている時はウロコを光らせ、寝ている時は消灯する、でどうだ? 話をする必要がなければ、気が楽だろう》


 言葉と同時に、ウロコがゆっくりと発光を始める。数秒かけて光量が増し、小型のランプと同程度の明るさになった。


《おお、目立つなエーギルのおっちゃん》

《そうだろう?》


 モクレンがウロコをちょいちょいと前脚でつつくと、エーギルがちょっと嬉しそうに応じる。


(意外と気さくなんだよなあ、このドラゴン…)


 ハンスは内心、少々遠い目になった。

 エーギルが気さくな性質でなければハンスとモクレンが地底湖に落下した時点でそのまま見捨てられるか沈められるかのどちらかだった可能性が高いため、文句はないが、『ドラゴン』という生き物に対しての認識──というかハンスの想像とはかなり違うので、ギャップに戸惑う。


 エーギルがウロコの向こうで咳払いした。

 咳払いも念話で再現できる。大変器用である。


《光っている時に話し掛けられれば応じるし、異変があった時はこちらから声を掛ける。春先、若いドラゴンたちが集まる時期には別途知らせよう。どうだ?》

「なるほど、それなら」

「うむ、悪くない話だ」


 元々魔石鉱山は、今後『日中のみ』稼働する方向で話が進んでいた。


 朝、エーギルのウロコを確認して、光っていたらその日は休み。

 光っていなかった場合は採掘している間中、誰かにウロコを見張ってもらい、途中で光り始めたら坑道の中の面々に知らせる。


 エーギルの起きている日がそのまま鉱夫たちの休日になって周期的な休みが増え、魔素濃度が上がるタイミングでの作業も避けられる。一石二鳥だ。


 ハンスたちは頷き合い、アーロンに提案してみることを決めた。





 ──当然ながら、その提案を受けたアーロンたち上エーギル村の面々は大層驚き、(おそ)れ、大混乱に陥ったのだが──


 すっかり感覚がマヒして平然としているハンスの態度に『実は普通なのか…?』と見事に騙され、結局エーギルの『生きた』ウロコを鉱夫の休憩所に安置するに至った。


 その後、ウロコの存在に慣れた村人たちは、休日、つまりエーギルが起きている時に代わる代わる休憩所を訪れ、ウロコを介してエーギルと気軽に駄弁(だべ)るようになるのだが──それはまた別の話である。





 ハンスの生還から数日で、上エーギル村の魔石鉱山の稼働状況はガラリと変わった。


 鉱夫が中に入るのは、基本的に作業可能日の日中のみ。

 それ以外の時間、坑道入口や換気口は魔素を通しにくい特殊な扉で封鎖しておく。

 作業可能日の朝は、人が入る前に坑道入口と排気口の扉を開け、坑道入口および内部に設置された送風機を一定時間稼働させて換気する。


 この送風機は、マークの息子ネイトが手掛けた。素材の提供は冒険者ギルドの面々及び商人のナターシャである。

 問題となっていた『送風機を動かすのに使う風の魔石』、つまりランニングコストについては、『風の魔石の代わりに水の魔石を使う』というネイトの斜め上の発想により解決した。


 水の魔石から勢いよく水を噴射させて羽根を動かせば、風が起こる。

 噴射した水は石材やレンガで作った専用の水路で排水し、一部は村に引き込んで生活用水として使う。


 加えて、送風機に使う水の魔石は天然のものそのままではなく、人工的に加工した精製魔石。

 これは特殊な魔法陣に()め込んで対象の属性の魔素または魔力を注げば繰り返し使える、どこぞの世界で言うところの充電池のようなものである。


 ネイトはこの精製魔石への魔素・魔力充填用の魔法陣を作って坑道の奥に設置し、『空になった精製魔石を置いておけば勝手に満タンになる特殊スポット』を作り上げた。水の魔素濃度の高いこの地だからこそ成立する設備だ。


 つまり、精製魔石の購入に要する初期投資以外は実質タダで運用可能な換気システムの完成である。



 なおこのシステム、ネイトは計画2日、設計1日、施工3日の実質6日で完成させていた。


 施工には地属性魔法が得意なエセルバートや、魔素を感知できるアルビレオとゲルダ、掘削や力仕事に慣れた上エーギル村の住民たちの協力があったが、合計20台以上の連動型送風機はネイト一人で作成した。


 『精製魔石も送風機も永久に使えるわけじゃないので、申し訳ないんですけど…』と真面目に謝るネイトに、魔法道具技術者の本気って怖ぇ、とハンスが遠い目をしていたのは秘密である。



 ともあれこうして、エーギルの起床・就寝の知らせにより、鉱夫たちは定期的に休みを取るようになり、強制的に坑道から離れる時間を作ることによって徐々に体調不良を訴える者も減って行った。


 採掘を行わない時間は坑道入口を扉で封鎖していること、扉が開いている時は送風機をフル稼働させて換気していること、下エーギル村の食材を積極的に食べるようになったこと──全てが上手く噛み合ったのも大きいだろう。



 そうして、おおよそ1ヶ月後。


 晩春の花々が咲き乱れる中、5年契約を更新するため上エーギル村を訪れた商人たちを相手に、村長のアーロンと上エーギル村の幹部たちは本気の交渉に(のぞ)み。


 付け焼刃なりにナターシャに鍛えられた舌鋒と契約書の読解力、そして用意していた大量の根拠資料をもって、見事『鉱山は上エーギル村のものである』という言質を取った。


 商人たちは『王立研究院が鉱脈を発見してくれたのだから、その分の謝礼を払え』と迫ったが、『最初期にその名目で金銭を渡しているし、それで足りなくとも、今まで支払っていた『鉱山利用料』で十分なはずだ』と粘り強く主張し、最終的には適正な内容での魔石の売買契約をとりつけたのだった。








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