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ぼくの友だち

作者: ここのひ

◯pixivでフリーとして公開しているお話です。

●無断転載はおやめください。


みんなは友だちいる?

ぼくにも友だちがいるよ。

ぼくよりとっても大きくてね、たまに肩に乗せてくれるんだ。そこから見るとすっごくキレイで、すっごく高いの。だから時々こわくなっちゃう。でもね?「大丈夫。オレがついてる」って体を大きなあったかい手でやさしく支えてくれる。ぼくはその手がとても好き。

それでいっしょにお話するの。笑ったり泣いたり怒ったり。コロコロ変わる顔がおもしろくて、ぼくは笑っちゃう。「なーに笑ってんだよ」ってちょっとムスッとするけど、すぐいっしょになって大きなお口で笑うんだ。

夕やけ空が見えてくると「はくしょん!」って大きなくしゃみ。風がごおっと、ふいたみたいに近くの木がガサガサとゆれて、鳥がバサバサとんでいく。

「さむくないの?」

耳をおおっていた手をとって、ぼくはたずねる。

「んー、ちょっと寒くなったな」

友だちは鼻をすする。

「もっと服着たらいいのに」

友だちはほとんど服を着ていない。だからさむそうだってぼくは思ってる。でも「オレは体が大きいからな、今ので十分だよ」って言うだけ。

「でも心配だなぁ」

「ははは。ありがとな。さぁ暗くなる前に早く帰りな」

そう言って、そっとぼくを下ろしてくれる。いつもこの時はさみしくてがっかりしてしまう。だからぼくは言うんだ。

「また明日くるね」

すると友だちは笑いながら手をふって

「もう来なくていいぞー」

その声に大笑いしながら帰る。

そんな日が大好きで、ぼくは友だちが大好き。


なのに、今日の友だちはなんだか元気がないんだ。いつもなら「また来たのか」って言うのに、今日は「おう」だけだし。どことなくぼーっとして、小さな音がするたび、そっちをじっと見るんだ。「どうしたの?」と聞いても答えてくれない。なんだかつまらなくなって、ぼくは帰ろうと思った。立ち上がってホコリを払っていると「帰るのか?」と聞いてきた。

「うん。なんだかつまんないもん」

「そうか。その方がいい。早く帰りな」

「また明日…」「もう、来るんじゃない」

その言葉にぼくは友だちを見上げた。

「もう、ここには来るな」

「なんで?」

「いいから!」

友だちは少し大きな声を出した。まわりの葉っぱがざわり、とゆれた。

「前から言っているだろう!ここには来るな!」

「なんで…?ぼくたち、友だち…」

「オレとお前が?そんなはずないだろう。オレとお前は違う。友だちなんて、オレは思った事ないね」

ぽろっとぼくの目から涙がでた。

どうして?

かなしくて、かなしくて。

ぼくは友だちに背を向けて走った。

走って、走って。息が苦しくなって。立ち止まって。声をあげて泣いた。オレンジに染まっていく空がとてもさみしかった。


次の日。ぼくはひとりで遊んだ。友だちに会う前、こうやって遊んでた。親から紙をもらって作ったのは紙ひこうき。どこまでも飛んでいく紙ひこうきを作りたくて。高いところから飛ばしたくて。少しのぼったところにある何もない、広いところで飛ばしてた。友だちに会ったのはその時。あの時から、ぼくのことキライだったのかなぁ…。

そんなことをぼんやり考えていると、まわりで豆を投げているのが見えた。

「なんで豆を投げているの?」

「今日は節分だからよ」

「せつぶん?」

「こうやって豆をまいて、悪い鬼が入ってこないようにするの」

「オニが?」

ぼくはいやな胸さわぎがした。ぼくは親が止める声も聞かず走りだした。息をきらし、昨日よりも早く、ぼくは走った。友だちのオニがいる場所へ。


「なんだ…来ちまったのか」

友だちは横たわっていた。いろんなところをケガしてるみたいだった。

「情けないとこ、見られたなぁ」

そう言って笑う友だちのほおを、ぼくはパチンとたたいた。キョトンとする友だちにぼくは抱きついた。

「なんだよ…泣いてんのか?泣き虫だなぁ」

ぎゅうっと抱きつくぼくに、友だちは大きくてあったかい手で体をなでてくれた。

「毎年のことさ。この日だけは苦手でね。オレと一緒にいる所見られちまうとよ、お前まで酷い目にあっちまう。それだけは避けたかったのさ。…イヤな思いさせて悪かった」

ぼくはぶんぶんと頭をふった。

「でも。もう会わない方がいい。オレはここを離れるよ」

「やだ。どこにもいかないで」

「ありがとな…。でもな。オレはいない方がいいのさ。だってオレは鬼だからな」

友だちはゆっくり体を起こし、ぼくを抱きしめた。

「友だちじゃないなんてウソだ。オレとお前は友だちだ。だけど周りはそう思わない。どうしたって鬼は悪いもの、だからな」

「ぼくがみんなに話すよ。こわくない、とってもやさしいんだって!だからここにいて。どこにもいかないで。明日もあさっても、ずーっと、ずーっといっしょにいたい!」

そう言うと友だちは大きな目から、ぼろり、と涙をだした。

「ありがとな。そう言ってくれるのはお前だけ。オレはずっと、そう言ってくれるやつに会いたかったんだ…」

もういちど、ぎゅっとぼくを抱きしめたあと、いつものように肩に乗せてくれた。オレンジに光るたいようは昨日とちがって明るくて、あたたかかった。

「なぁ、紙ひこうき持ってるか?初めて会った時みたいに飛ばしてくれよ」

ポケットからとりだした、しわしわの紙ひこうきを折り直して、ゆっくり飛ばした。

初めて会ったあの日。ぼくのヘロヘロな紙ひこうきはうまく飛ばなくて。友だちの頭によくささっていた。

そのころとちがって、紙ひこうきはスーッとまっすぐ飛んでいった。

「うまくなったな」

「いっしょに何回も飛ばしたもんね」

「そうだったな」

友だちは紙をとりだして、ぼくに言った。

「紙ひこうき、作ってオレにくれないか?」

「うん」

ぼくは今までで一番ていねいに紙ひこうきを作って渡した。

「宝物だ」

そう言って、友だちはうれしそうに笑った。



ぼくが友だちに会った最後の日から、何十年も経った。

相変わらず、鬼は悪いもの、というイメージは根強くある。そんな中、ぼくは一冊の絵本を書いた。ぶっきらぼうで優しい、鬼の話。小さい頃、叶えられなかった『こわくない、とってもやさしい』を伝えるために。

ぼくは紙に絵本をうつして紙ひこうきを作った。

そして、友だちの居なくなったあの場所で、ゆっくりと飛ばした。

いつか、どこかで、元気に暮らしているはずの、大切な友だちへ届くように。

紙ひこうきはスーッと、どこまでも真っ直ぐ飛んでいった。

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