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まるで生まれ変わり  作者: 用心深史
第一章
8/14

第8話 独白

 結局梨沙も俺と一緒に北に向かうことになった。元々家族で北に逃げようと話し合っていたらしく、親も生きているなら北を目指しているはずだった。


 その後は何回か休憩を挟みながらひたすら北へ向かって歩いた。地図など持っていないしスマホも使い物にはならないので、時々道路側にある曖昧な看板で現在位置を確認するしかなかった。

 こんな状況でなかったら年頃の男女が2人きりなのは心が高揚するものだが、生憎そんな余裕はない。歩いている間も常に周囲を警戒し続けなければならない。


 あいも変わらず人気のない住宅街をようやく抜けると、見晴らしのいい国道に出る。どうやら周りよりも数メートルは高くなっているようだ。コンパスを確認して道が北に向かって伸びていることを確認する。周りの警戒もしやすいということで国道に沿って歩く。やはり人っこ1人いなかったが放置された大量の車が車道を塞いでいた。


 「ここの人たちも逃げた後か…」


 少し嫌な予感がする。三ツ谷の住んでいた町では、避難勧告が出た2日後に奴らが南から押し寄せて来たのだ。だとするとここら辺りに住んでいる人々はたった3日で全員避難することができたのだろうか。

 気にはなるが考えても仕方ないことだ。それよりも今は一刻も早く北に向かって奴らから逃げることに集中すべきだ。


 その日は近くにあった、たまたま鍵のついたままのSUVを見つけたのでそこで寝ることにした。中には物が散らかっており、慌てて車から出ようとしていたことが窺える。どうやら電気自動車のようで、エンジンをかけても音はほとんどしなかった。都合の良いことにかなり電気の残量が残っているようで一晩中エアコンをつけていても大丈夫そうだった。

 梨沙と一緒の車で寝ることに躊躇いがないわけでもなかったが、あちらはさほど気にならないようだ。結局俺は運転席、梨沙には後部座席で寝てもらうことにした。

 梨沙は親の話になってからというもの、口数が少ないままだった。そこには一日中歩き続けた疲れもあるのだろうが、やはり親の心配が大きいのだろう。俺の両親は総理大臣の移動した北海道にたまたま旅行に行っていたからいいものの、そうでなかったら気苦労は絶えなかっただろう。


 朝まで何かあるわけでもなく、自然に目を覚ます。昨日交流センターの床で寝たのに比べれば、車のシートはずいぶん寝心地が良かった。

 

 「おはよう」


 梨沙は先に起きていたようだ。返事をして伸びをする。同じ姿勢で寝ていたからかかなり肩が凝っている気がした。

 軽い朝食を2人で食べて車から降りる。今日も曇り一つない快晴だ。


 昨日と同じように国道沿いに再び歩き出す。


 「人だ」


 梨沙が前方を指差しながら呟いた。よく目を凝らしてみると確かに人影が見える。国道に停められた車の隙間から5人くらいの後ろ姿がのぞいていた。

 久しぶりに俺たち以外の人を見た気がする。ようやく北にずっと進んできた甲斐があったものだ。そんなことを考えていると梨沙に袖を引っ張られる。


 「ねえ、何かおかしくない?」


 そう言われて初めて気づいたが、前にいる人の集団はただ突っ立っているだけで互いに話をしている様子さえなかった。可能性は2つある。まず一つ目に単純に変な人たちだということ。二つ目はーーー感染者ということだ。


 あの集団が感染者だとは思いたくなかった。今まで北の方が安全だと思ってきたのに、すでに感染者がいるということは北では感染が広まっているということを示唆するからだ。ただ入り口が制限される北海道では別だろう。それに北海道にはかなりの数の自衛隊が基地を置いている。安全である可能性は高い。しかし、陸路で行くしかない俺たちにとっては進行方向に奴らがいるのは致命的だ。

 だがもし感染者だった場合ただでは済まない。これまでのところ、感染者は例外なく全力で走ってきていた。個体差はあるもののかなりのスピードであるため、一回でも派手にコケたりしたら一瞬で奴らの晩餐になるだろう。今は昼だが。


 「迂回しよう」


 その提案に梨沙はうなづく。そうして2人は近くにあった脇道へと逸れて行った。


 しばらく歩いている内に商店街に出る。かなり古びていて錆びついたアーケードが目につく。


 「私たちの街にもあったよね、商店街」


 梨沙の言葉に同意する。確か梨沙の家にかなり近かったと思う。


 「私、結構あの場所好きだったんだよね。あんたとも買い物したりしてたけど」


 「もう無くなったけどな」


 小学校の時にはよく三木と俺と梨沙で駄菓子屋に行ったものだ。女子と遊んでいるからと周りの男子に揶揄われたりしたが俺も三木も大して気にしていなかった。それほどまでに仲が良かった。しかし現在、三ツ谷の街にある商店街はほぼ全ての店舗にシャッターが下されていて買い物ができる状態ではない。親から近くに巨大なショッピングセンターができた影響で人が行かなくなったと聞いたことがある。


 「いつか元通りになったらさ、どこか出かけない?こんな状況じゃ積もる話も話せないし」


 「ああ」


 それをするにはきっと何年かかるのだろうか。少なくとも東京は壊滅しているのだからかなりの期間がかかるはずだ。そう言いかけたが水を差すようだったから言わないでおいた。


 突然だが、俺は昔から人間を信頼することができなかった。いつからかは分からないが、物心ついた時にはすでにそうなっていた気がする。例外といえば両親くらいだろうか。小さい頃から一緒だった梨沙や三木でさえ完全に気を許したとは思っていない。ただ、それなりに普通の人のように感情はあるし、人付き合いも悪い方ではない。ただ頼らないだけーーーーーーー期待しないだけだ。


 日も暮れてきたので、商店街の中の店の一つで泊まることにした。小さな薬局のようで、こぢんまりとした店の中に所狭しと風邪薬や咳止めなどが並んでいる。いくつか拝借しようとしてカバンの中に入れようとした時、食料がもう無くなりそうなことに気づく。元々3日分の食料しか入れていなかったので当たり前といえば当たり前だ。


「少し周りを見てくる。ついでに何か食料がないか探してくるよ」


「私も行く」


「いや、俺1人で十分だ。かなり疲れているようだし休んでいてくれ」


「でも…」


「大丈夫だよ。ここらあたりには奴らはいなそうだし、危なくなったらすぐ逃げるから」


「……分かった」


 ここで梨沙を連れて行かなかったのは二つ理由がある。         

 一つ目に梨沙がかなり衰弱していそうだということ。昼間はずっと歩き続けているし、食料も節約の為にあまり多く食べれていなかったから仕方ないことだと思う。

 二つ目にそんな状態で着いてこられたとしても安全を保障できないということだ。この間は偶然感染者を行動不能にすることができたが、今度も同じようになるとは限らない。というかそうならない確率の方がよっぽど大きい。つまり、邪魔だということだ。奴らが走る以上、早く走れないと喰われるのは当然だ。合理的に考えた結果だし、間違っているはずがない。


「じゃ、行ってくる」


 梨沙がうなづいたのを見て薬局のシャッターを閉める。そこそこ頑丈なので感染者1人くらいになら破られなさそうだ。

 商店街内の商店は大方閉まっていた為、商店街から少し離れて食料を確保できる場所を探す。北がどうなっているかわからない以上、食料を確実に確保したかった。

 感染者に警戒しながら歩いていると、24時間営業のコンビニの看板が目に入る。

「よし」

 あまり商店街からも離れていないし、食料を確保するには絶好の場所だった。

 少し離れたところからコンビニの中を窺う。どうやら荒らされてはないようで、中身は普通のコンビニそのものだった。中で動くものも何もないが、一応コンビニの扉の前に石を放って音を立てる。感染者が音に反応するのかは定かではないが、やらないよりはマシだ。しばらく待って見ても何も動きはない。そのことを確認したあと、コンビニの扉へと向かっていく。どうやら鍵がかかっているようで開く様子はない。仕方ないのでコンビニの裏手に回って従業員用の勝手口を探す。

 勝手口は見つかったがここにも鍵がかかっていた。ここのコンビニの店員は戸締りをする余裕があったらしい。普通だったら真面目で偉いことだが、俺にとっては邪魔にしかならない。現状閉まっている鍵を開けることはできないので薬局に帰るしかなかった。


 十分くらいかけて薬局へと戻る。


「戻ってきたぞ」

 シャッターの前で話しかけるが返事がない。事前に外から俺が声をかけたらシャッターを開けるよう決めていたはずだが、寝てしまったのだろうか。

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