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まるで生まれ変わり  作者: 用心深史
第一章
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第6話 ぼっち

 しばらく歩いているうちにどんどん陽は沈んでいく。スマホを見るとすでに5時になっていた。いつのまにか電波の受信状況を知らせるアンテナマークは消えており、充電状態を見るとすでに20%を下回っている。モバイル充電器を取り出しケーブルで繋ぐ。だが充電状態にはならない。どうやら肝心の充電器の方の充電を忘れていたようだ。思わずため息が出る。腕時計は持っていないため、スマホの充電がなくなれば時間の確認さえできなくなる。懐中電灯は持っているので明かりの問題はないがそれも節約しなければならない。


 日が完全に沈む。まだ10月だというのに白い息まで出始めていた。手は悴んで真っ赤に染まっている。どうやら今日はかなり冷え込むらしい。考えなしに北へ移動してきたが、夜を越す場所さえ決めていない。自宅は南にあるため今更戻るというのは論外だ。このままでは野宿するハメになる。周りには畑とポツポツ民家があるだけだ。逃げ出したのだろうか、電気がついている家はなかった。


 そこで一つ思いつく。民家に、知らない人の家に侵入して一晩を過ごす。つまり、犯罪をするのだ。流石に気が引ける。


 そうは思うものの、合理的な考えではあるかもしれない。このままでは野宿になってしまうし、それによって疲労だったり風邪をひいたりしては最悪だ。だが、犯罪という言葉が胸に深くのしかかる。ついさっきまで普通の生活をしていた普通の高校生にそのようなことできるわけもなかった。


 そのまま歩いていると交流センターと書かれた建物に気がつく。電気はすべて消えているが、入り口のガラス張りのドアは空いているようだ。勝手に入るのに少し躊躇したが、民家に押し入るよりは断然マシに思えた。


 入り口に近づいていくが、近くにも交流センターの中にも人の気配はない。どうやら俺1人のようだ。中に入り少し進むと受付の前に出る。カウンターには書類らしきものが綺麗に並べられたままだった。中身を見ると、そこには入館した人物の名前と時間が書かれている。日付欄には昨日の日付を最後に空欄が続いていた。

 

 一応入り口の鍵をかけておく。学校から離れたと言っても、車を使えば30分で着く距離だ。感染者がここまで来てもおかしくない。


 交流センターは2階建てで、一階には受付と自販機が数台、大きな会議室が一部屋あり、2階には小さな会議室がいくつかあるだけだった。


 建物自体の電気はすべて消えていたが、自販機には明かりがともっていたので、まだ電気は通っているらしい。自販機から数本のミネラルウォーターを買い、二階へ上がる。月が出ていたのか、電灯がついていなくてもある程度視界は見える。


 一番手前の会議室の扉を受付で失敬した鍵で開ける。中は殺風景でホワイトボードと長机にパイプ椅子があった。エアコンもあったので暖房にして付ける。自分のたてる音以外は何もないので、エアコンの駆動音がずいぶん大きく聞こえる。今夜はかなり冷えそうだ。

 

 電気をつけるか迷ったが結局つけないことにした。この真っ暗な街で電気をつけるのはいささか不安があった。明らかに目立つだろうし、人がいると教えるようなものだ。感染者にそこまでの知能や視力があるのかは分からなかったが不安要素はなるべく減らしておきたい。


 食事をしてトイレに行っておく。電気が使えるうちに済ませるものは済ませたかった。用を足した後手洗い場の鏡で自分を見る。いつもよりだいぶやつれて見えた。


 その日はそのまま会議室で就寝した。朝起きると暖房は消えていて、部屋はかなり冷えていた。こういう災害があったときには自衛隊は発電所や変電所などの重要インフラを守っていそうなものだが、陥落したのか、それとも撤退したのか...。考えても仕方ない。


 食事をしようと鞄を漁る。そこで多機能ナイフを入れておいたことを思い出した。ないよりはマシだろうとポケットに入れておく。


 ポケットに入れた瞬間ふと我に帰る。昨日までは普通の暮らしをしていたのに、今はこうして1人で逃げ隠れている。大切なものは無くしたときに気づくとはよく言ったものだ。三木や両親は無事だろうかと物思いに耽っていると、外から聞こえる叫び声で現実に引き戻される。どうやらまだ危険と隣り合わせであるということを三ツ谷は再認識せざるを得なかった。

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