第5話 逃走
一直線に体育館に向かって走る。校門からは少し離れた位置にあるため先に感染者がたどり着いている可能性は少ないだろう。入り口が近づくにつれて人々の喧騒が大きくなる。中は混乱状態で、自分の荷物のところまで行くのにも一苦労だ。なんとか辿り着くと、すぐにリュックを背負って校門とは反対側の出口に走る。その途中で体育館の端で泣いている女の子が目に入る。小学生くらいだろうか。
いつもなら声をかけるぐらいのことはしたかもしれないが、今は状況が状況だ。周りを見渡しても他人のことを気にかけるほど余裕のある人がいるはずもなかった。
少し立ち止まった後、声をかけようとした。その瞬間女の子の後ろの窓から腕が入ってきてその子の頭を無造作に掴む。甲高い叫び声が聞こえる。
出しかけていた足が固まる。背中に冷や汗が出ているのを感じる。まだ助けられるか?そのような考えは校門側の入り口から聞こえた叫びにかき消された。
気づいた時にはすでに出口の外にいた。フェンスをを見渡して脱出口を探す。幸いにもすぐ扉が見つかったので駆け込む。鍵はかかっていなかった。先に逃げた人がいたらしい。校舎の敷地にはまだ多くの人が残っているらしく、悲鳴や叫びが数多く聞こえた。
急いで離れようと走り出す。目的地は北だ。きっと南はもう感染者の棲家となっているだろう。できるだけ北に逃げなくては。三木とその家族も気になるがきっと逃げていると思い込み駆け出す。
校舎から10分ほど離れると、学校からは何も聞こえなくなった。周りからの音もしていないし、まだ周辺には感染者が来ていないのだろう。そう思うと一気に気が緩んだ。
息を整えるためしばらく歩くことにする。もしもの時のために体力をできるだけ温存しておきたい。歩いている間、先程の光景が何度もフラッシュバックする。女の子の助けを求めるような瞳は頭を振ってもこびりついて離れることはなかった。
冷静に思考ができるようになった途端、後悔の念が込み上げる。助けれたのではないか。いや、すぐそこまで感染者が迫っていたし、助けようとすれば共倒れになる可能性もあった。そのように自己問答ばかり繰り返す。
「仕方なかっただろ」
1人呟く。その言葉は誰もいない夕暮れの住宅街にきえていった。




