第14話 取引
「お父さん、入るよ」
中から男性の声が聞こえる。
部屋のベットに中年の男が横になっていた。一階の様子とは対照的で物が多く置かれている。その中、ベットのすぐそばに細身で長い何かを収めているケースがあった。
「お父さん、大丈夫?」と、少女が心配そうに声をかける。
男性はゆっくりと顔を上げ、微かに笑みを浮かべたが、その表情には力が感じられなかった。「ああ、なんとかね。戻ってきてくれてよかった。」その言葉にはどこか力なく、疲れが滲んでいた。
「彼、三ツ谷さんです。」少女が振り返り、俺を紹介する。事情を話すと三ツ谷の方を向いて一瞬驚いたような表情をした。
そして何故だろうか、その顔には見覚えがある気がした。
「ありがとう…助けてくれて。」男性が小さく頭を下げる。
「……いえ、具合が悪いんですか?」
「ああ……元々持病があったんだ。こんな世界じゃ医者にもかかれない。悪化していく一方さ。」
「お父さんッ……」
舞の話をさえぎって食い入るように続ける。
「聞いてくれ。舞。」
「私はもう長くはない。だが、舞1人ではきっと生き延びるのは難しい。だから……」
イヤな予感がする。
「三谷さんに頼るんだ。」
「いやちょっと待ってよ。さっき出会ったばっかりでほとんど他人だよ⁉︎」
当然だ。こちらとしてもどうして初対面の人の親に子供の世話を頼まれなきゃいけないんだ。そんな義理も道理もない。
「ほんとですよ。初対面ですよね。僕たち」
突拍子もない話に語気が少し強くなる。こいつは...いかれているのか?もしそうだとしたら一緒にはいられない。巻き添えはごめんだ。
「もちろん。そうするだけの理由はある」
三ツ谷の胸の内を見透かしたかのように続ける。
「君は見たところ、ここまで一人でやり過ごしてきたようだ。そんな君と一緒にいれば生存の確立は上がるだろう」
「なぜそう思うんです?」
「長く話さないと声帯の機能が低下して声がかすれることがある。大声でもかすれるけど、そんなことはしていないだろう?」
なんなんだ。この人は。
「例えそうだとしても、俺が足手まといの他人を連れていくほどの善人であるかはわからないですよね」
「確かにそうだ。」
男はこちらを感心したような眼で眺める。
「そこは...信用するしかないかな」
薄ら笑いを浮かべた顔で冗談でも言っているかのようにふるまう。
「それに、承諾してくれたら君には良いものを差し上げるよ」
男はそう言ってベッドの近くにおいてあるケースのジッパーを開く。中身は銃だった。それも普通の、いわゆる猟銃じゃあない。黒い全体が鈍く光っている。
「それって...」
「小銃だよ。自衛隊の」
「なぜそれを持っているんですか」
「自衛隊には予備自衛官という職種があるのを知っているかい?」
「ええ、、まぁ」
SNSのタイムラインに流れてきたことがある。確か人手が必要な時に駆り出される人たちのことだ。
「この騒ぎで予備自衛官は残さず招集されたが、それだけでは人員が足りないということで、予備自衛官になっていない元自衛隊にも召集がかかったんだ。私も元自衛官でね、そこに召集されたというわけだ」
男は淡々と話し続ける。嘘が混じっていればここまでスムーズに話すことはできないだろう。
「しかし招集された部隊は壊滅。何とかこれ一丁を拾って逃げ帰ってきた。」
「もちろん、整備方法も教えるし弾だって決して多くはないがあげることができる。さらに私の持っている情報は君に与えよう。悪くない取引だと思うがね」
「...少し考える時間をください」
この男の言っていることが本当だとしても、飛びつくのは危険だ。少し頭を冷やしたい。
「確かにそうだ。決まるまでこの家で休んでいくといい。三号室を使いなさい」
会釈をして扉から出る。舞はもう少し話をしていくようだ。
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