表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まるで生まれ変わり  作者: 用心深史
第一章
13/14

第13話 


 

 「助かった……」


 男達の足音が遠ざかって行くのを聞いた後、一呼吸おいて同行者の元へ視線を移す。


 同年代ぐらいだろうか、暗いところで見たよりも若い印象を受けた。凛々しい顔立ちをしていて学校ではさぞモテたのだろう。

 その視線に気づいたようで、少女はこちらに向き直って頭を下げた。


 「ありがとうございました。あなたのおかげで助かりました。」


「いや……そんなことは……」


 助けたのは単純に善意からではない。たまたま少女に人を傷つける胆力はなく、さらに出口を知る必要があったからだ。きっと隠れているのが屈強な男だったら、どうにかして1人で逃げようとしていただろう。


「……じゃ」


 一旦は危機から脱出できたようだし、もう一緒にいる必要も無くなった。何より日が暮れてきているので今夜のキャンプ地を探す必要がある。それに加えてさっきの男達のことについても対策を立てる必要がある。感染者も確かに脅威だが、生きた人間も恐ろしい。物資も手に入らず、無駄骨だったなと思いながら腰を上げると隣から声が聞こえる。


「ちょ、ちょっと待って。どこに行くの?」


「今日泊まる場所を探さなくちゃいけない。生憎、ここらに詳しいわけでもないからな。」


 ウイルスが広がった直後は留まる場所に気を使わずにすんだが、最近はそうも言ってられない。感染者もおらず、窓やドアなどが破損してない家屋を探すのはなかなか骨が折れる。さらに屋内の安全確認には時間がかかるので今すぐにでも始めたい。


 少女は少し考えた後、こちらに向かって問いかける。

 「あの……その…うちに来ない?……来ませんか?」


 彼女は敬語が苦手なようだ。こんな世界で使う必要もないだろうに。


「理由は?」

 

 どうしてそんなことを言うのだろう?たとえ一時的に行動を一緒にしたと言っても、さっきあったばかりの他人だ。そんな人間に自分の住処を教えるだろうか?


「私は生まれた時からこの街にいるから大抵のことはわかります。あと、さっきの男の人達のこと、知りたくないですか?」


「対価は?」


「え?」


「だから、俺に何をして欲しいんだ。」


 こんな美味しい話、裏がないはずがない。罠である可能性もある。いや、よっぽどそっちの方が高い。


「お父さんが倒れて……だから人手がいるんです。」


 それなら多少は納得がいく。男手が足りなくなったから、この少女は代わりに物資の調達をしていたのだろう。隠れている時の怯えようもそれで説明がつく。


「君の家には何人住んでる?」


「お父さんと2人」


 どうするか迷っていると遠くから感染者の叫び声と銃声とが聞こえた。太陽はすっかり水平線の下に隠れてしまっている。……どうやら時間はないようだ。


「分かった。ただし罠だったりこちらが害されそうになった場合は…分かるな?」


 その発言に少女の顔が固まる。だが、やましいことはないのか、


「……分かりました。こっちです。」


 と言って怯えながらも先導し始めた。


 流石に言い過ぎだっただろうか、だがこんな世界だ。少女の気はあまり強くないようだし、強く釘を刺しておくに越したことはない。それにただの協力者であって親交を深める必要もない。信用できるのは自分だけだ。


 以前の三ツ谷だったらこんなことを他人、ましてや女性に言うなんてあり得なかっただろう。だが、世界の終焉とともに着実に、そして確実に三ツ谷の中で変化が起こっているのを感じた。適応してきているのかもしれない。



 しばらく後ろをついていくと、山道の入り口にたどり着いた。


「この先に?」


「はい。”これ”が始まったすぐ後に、キャンプ場のログハウスに移動したんです。」


 周りは木々に囲まれていて、山道も楽なわけではないため感染者も略奪者も来ることはない安全地帯らしい。確かに感染者は走ることはできても転んだら立ち直るのに少し手間取るし、この世界では最適なのかもしれない。


 山道を抜けて整備された道が続いた先にログハウスがあった。確かにここにあれば誰かに気づかれることもなさそうだ。


 二階建ての、誰もがログハウスと言われれば思い浮かべそうな家。脇には薪が積み重なって置かれている。


 少女がドアの前に向かう間、離れて中の様子を伺う。窓のカーテンは閉められておらず中に人影は見えない。




 それを受けて少女は鍵を取り出し、鍵を開ける。木製のドアが耳に障る音を立てて開いた。


 玄関とリビングルームが繋がっている物件のようだ。家の中を見回す。


 その家の中は一言で言えば「静か」だった。まるで外と同じように。ここで人間が暮らしているにしては生活感がなさすぎる。リビングにある大きなテーブルは埃をかぶっていて使われた形跡はない。


 早速この女に対しての疑念が芽生え始める。本当にこの女の言葉を信じても良いのだろうか?


「生活感がないようだけど」


「一階は使ってません。もしも奴らが来たらすぐに見つかっちゃうから。」


 もっともらしい理由だ。ただ、外での行動や立ち振る舞いを見ているとこの少女が考えてのではなく、彼女の父親だろう。



「お父さんは2階です」

  

「…ああ」


 そして少女は階段を登り二階のある部屋の前で止まる。


 


 

 

高評価、ブクマしていただけると喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ