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まるで生まれ変わり  作者: 用心深史
第一章
12/14

第12話 店

大学受験終わったのでぼちぼち書いてきます


 目的地に向かう道中は大した危険もなかった。感染者は数体いたが、相次ぐ銃声に引き寄せられてこちらに気づく様子もない。

 だがこれによってある結論が浮かび上がる。


「この街には武装した人間がいる。」


 近接武器で武装した人間なら走って逃げることもできるが遠距離武器、それも銃となれば話は別だ。威力も射程も近接武器とは比較にならないし、少しの傷が致命傷になる可能性があるこの世界では大きな脅威となる。


 その人間と接触することも考えたが、こちらに抵抗する手段がない上に友好的であるかどうかもわからない。また、梨花の件もあってそんな気にはなれなかった。


 そんなことを考えていると目的地に着いた。駐車場には放置された車が何台が停められたままになっている。建物の外見は感染が拡大したままで時間が止まっているかのようだった。ガラス張りではないので店内の様子は窺えない。


 いつも通り感染者がいるかどうかを確認して中に入る。外が曇りなのもあってかなかなかに暗い。


 ライトを取り出して周りを照らす。中の物が持ち去られた形跡はあるが、比較的綺麗だった。建物は二階建てで中はかなり広い。この様子だと音を聞きつけなかった感染者がいても不思議ではない。


 ため息をついて商品棚の間を手前から一つ一つクリアリングしていく。民家で見つけたハイキングシューズの音のみが響く。


 最後の列までライトで照らしたが、それといった脅威もないようだ。

「2階は明日にするか」


 そう呟いて再びため息をついた瞬間、微かな音が聞こえた。最初は家鳴りかと思ったが、何かが動いた気配が確かにあった。ライトをその方向に向けると棚の影から何かが見える。


「感染者か……?」


 心の中で自問しながらも、足音を立てないように慎重に近づく。棚の隙間からゆっくりと覗いてみると、そこにいたのは感染者ではなく、ひとりの女性だった。年齢は20代前半か、それとも10代後半か。こちらを見て怯え切った顔に、グレーの色のジャンパーを着ている。その手には小さなナイフが握られているが、明らかに武器としては頼りないものだった。


「動くな」


 三ツ谷の声が店内に響く。彼女は何かを言いたげだが、口を開くことはない。かろうじて肩で息をしながら、ナイフを少し握りしめていた。


「君、仲間は?」と声をかけてみるが、彼女は動かない。強く警戒心を抱いているようだ。その反面、表情には困惑の色が見てとれた。


「本当なのか?ここに入る人影があったってのは」


「本当っすよ!確かにこの目で見ましたし」


 外からの声に、声を出そうとしていた喉の動きが止まる。生存者だ。おそらく複数の男性のグループ。


 どうするべきだ。そう思いながら彼女の方を見ると、怯えが一層強くなっていて、じっとしているのがやっとらしかった。

 

 そのとき、三ツ谷は現状を察した。おそらくここは彼らの縄張りで、彼女と俺は邪魔者なのだろう。それに加えて奴らは銃を持っている可能性が高い。これまでの状況を鑑みて男性のグループと接触するのはリスクが大きい。


 小走りで女性の元まで駆け寄る。彼女は体をびくりと震わせた。


「ここから逃げるぞ。出口はわかるか?」


 唐突な質問に面食らったようだが、こちらに敵意がないことを確認すると少し考えてから喋り出した。


「奥に裏口があります。そこならバレずに逃げられるかも。」


 震えながら発せられた女性の声は想像よりも幼いように聞こえた。


「分かった。そこから逃げるぞ」


 そうと決まれば三ツ谷は、わずかな息をつきながら女性の肩を軽く押し、指を口元にあてて「静かに」と示した。彼女の瞳が一瞬、何かを理解した様子を見せたが、すぐにまた不安げな表情に戻る。それでも、何かを決心したように、深呼吸をしてから、軽くうなずいた。


「裏口、か…」三ツ谷は小さく呟き、視線を暗がりの奥に向ける。何も見えないその先に、逃げる道があると信じるしかなかった。


「大丈夫、行ける。」声をかけ、ゆっくりと後ろを振り向く。外からの声はますます近づいてくる。男たちの足音と低い話し声が、薄暗い店内に響き渡る。その声は、どこか不穏で、鋭さを帯びている。


「あと少しだ、急げ。」三ツ谷は、女性の背中を押して、少しでも音を立てずに奥の通路へと進む。


足音を立てぬように、棚の陰に身を隠しながら移動する。冷や汗が額を伝うが、今はそれに構っている余裕はない。女性の足音も、ほとんど聞こえないほど静かに歩いている。だが、心臓は外に音が聞こえそうなほどに脈打っていた。


「裏口、どこだ?」三ツ谷は、低い声で尋ねる。


「もうすぐ…そこ。」女性が指を差した先に、薄暗い開口部が見えた。銀色の扉が、わずかに開いている。その先に出れば、駐車場の裏に出られるはずだ。


足音がさらに近づいてくる。あと数秒で、彼らが店内に入ってくるだろう。


「急げ。」三ツ谷は女性を促しながら、扉に向かって進んだ。扉を開ける前に振り返ると、薄暗い店内の隅から、彼らの姿が見えた。すでに男性たちは、店内に足を踏み入れている。無駄に目立たないようにしながらも、明確に迫ってきている。


「出ろ、今だ!」三ツ谷が低く叫んだ瞬間、女性が素早く裏口を抜けた。三ツ谷は彼女を先に行かせ、最後に扉を閉めようとしたその時、店内からの声が静寂を破った。


「誰かいるのか?」


その声に、三ツ谷は一瞬固まった。心臓が一気に止まるような感覚に襲われるが、すぐに自分を奮い立たせて扉を閉める。


「くそ…」振り向くと、女性はすでに裏口を抜け、駐車場へと走り出していた。三ツ谷もすぐにその後を追い、足を速める。




「時間がない!」三ツ谷は女性の肩を押して、さらに速く走らせる。彼女は震えながらも必死に走り、ついに駐車場の隅に差し掛かる。隠れる場所を探して視線を走らせると、ちょうど古びた車の陰が目に入った。


「ここに隠れろ。」三ツ谷は女性を車の陰に押し込む。続いて、自分もその背後に身を隠した。


息を殺して足音が近づいてくるのを待つ。数秒が何時間にも感じられる。その間に、三ツ谷は心の中で次の行動を考えていた。今のままではどうしても相手に気づかれるだろう。少なくとも数秒の時間稼ぎができれば、その隙に逃げられるかもしれない。


「く、くる…」三ツ谷は女性を横目で見つめ、彼女も必死に静かにしている。


足音がすぐ近くまで迫り、視界の隅に男たちの足が見えた。三ツ谷は呼吸を止め、心臓の鼓動を抑え込む。


だが、その時、車のエンジン音が街中に響いた。それを聞いた男たちがはっと振り返る。


「いたぞ!」


 どうやら三ツ谷達が車に乗っていると思ったらしい。男たちは車のことをたどって走り去って行った。



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