羽龍
得難いふたりの新人は、マランドロとしてのポテンシャルは充分に有していると思えた。
しかしそれは、裏を返せば磨かねば素材のままということになる。
さて、まずはこの優しげな男の方から始めようか。
「ウリは優しいな。周りをよく気遣っているのもわかる。しかしウリよ。優しさとはなんだ? 気遣いとは?」
「え......親切にすること? 相手の気持ちになって考えるとか?」
「その通りだ。
だが、紳士的であるには、そこに、その軸に、己と言うものが確立していなくてはならない。
誰かに言われるがまま、言われた通りにしてあげるのは少し違う」
マランドロのフィロソフィーを己の軸に据えた上で、他人を慮る。
紳士の条件のひとつだ。
ウリは確かに優しいが、優しすぎるようにも思えた。
振り回されているわけではなさそうだし、断れない性格ということでもないようだが、許容量が大きいのかメンバーからの頼み事は何でも聞いているし、気づいたことがあれば率先して手を差し伸べている。
柔和な表情でいることが多く、話しかけやすいのも要因のひとつだろう。
とても良いことのように思える。しかし、例えばメンバーの誰かが金を無心したとしたら、理由くらいは訊くかもしれないが、特に追求はせず無条件で貸してしまう姿が想像できた。
ウリは情報の扱いには長けている。判断力も優れている。
だから誤った選択の帰結としてそれを為すわけではない。
ウリは執着の薄いものに対しての優先順位が低い。
例えとして挙げた金銭のやり取りは、ウリにとっては特段の意志を必要とせずに実施される親切なのだ。街中で道を尋ねられた時、自然に答えるように。
ウリは若くして会社を立ち上げた起業家だ。経営者だけあって金銭に対しての感覚は鋭く、真摯さも持ち合わせている。
しかし、自身所有のお金には頓着がないようだ。
ウリにとってさほど重要としていないお金は、しかし一般的には重いものだ。
貸借りにしろ授受にしろ慎重であるべきだろう。
ゼ・ピリントラは貧しき者の味方だった。
必要だと思えば惜しげもなくお金を使ったに違いない。豊かとは言えない自らの懐を傷めてでも。
しかしそれは、貧しき者を活かすためである。一時的な処置ではなく、自立を促せる使い方だったはずだ。
彼が救った少女マリアナヴァリアは、やがて光り輝くパシスタへの道を歩みはじめたように。
ウリの類稀なる判断力の拠り所の軸に、マランドロのフィロソフィーを加えられたら、生来の優しさはウリなりのマランドロを創り上げる一助となるだろう。