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着信

 着信に気付いた。

 八木さんからだ。午後九時は寝ている時間ではないが、仕事関係の電話をかけるには適しているとは言い難い。相変わらず遠慮がないなと思いながらも出る。

 マランドロは紳士だからな。レディファーストを標榜するなら無視をするわけにはいかない。


「夜分にすみません。今どれくらい話せますか?」


 話すこと自体は問題が無いと決めつけている。まあ大丈夫だから出たのだが。


 俺は電話できる状況ではないときは、余程のことが無ければ電話には出ない。

 掛ける側にも都合はあろうが、受ける側にも都合はある。無論組織人だし仕事をしていた身だ。出なくてはならない電話、出た方が良い電話、出たい電話もある。要は優先順位の話で、かかってきたら必ず最優先で出なくてはならないと思っていそうな人が多いのことへの、軽いアンチテーゼでそんな話をしたことがあった。それを覚えていたのかもしれない。


 話せる時間を問うということは、短くはない話なのだろう。

 仕事がらみで、この時間で、長くなるとするなら、それなりに厄介で急ぎの対応ないしは判断が必要な問題が生じたのかもしれない。


「時間は気にしなくて良い。何があった?」

 こちらは八木さんの言う、暇な身だ。

 電話の会話くらいたいした負担ではない。


神門(かんど)ビルってわかります? 担当が主事の名前になってて」


「線路沿いのテナントビルだったか? 担当って言っても管理会社に一任しているから特に何かしたということもないのだが」


「そうですか。それでは、店子のことはあまりご存じないですよね......」


「店子どころか、オーナーのことも詳しくはないよ。駅周辺の都市開発事業とも直接関わらない物件だったしな。何かあったか?」


「そこのオーナーから、用地の担当が土地活用の相談を受けたらしいんです。

ただ、用地は新駅周りの商業施設案件がひと段落しましたから、大規模な宅地用の用地獲得に全員駆り出されていて、細かい案件を消化できる人員がいなくて」


 まあそうだろう。

 まだまだ旧農地が広がっているエリアだ。メジャーも何社か入ってきてるから、しばらくは陣取り合戦の様相が続くだろう。

 ブランドに劣り、地の利に勝る地場のデベロッパーとしては、人数を投下して足で稼ぐのが常道だ。

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