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怪我の理由

 維蕗の身体に認められた痣の原因をさりげなく尋ねると、維蕗は目線を外すようにやや俯いた。


「他のはテンカじゃないけど……」


 忘れた、という。

 嘘は付けないが言うことはできないってことだろうか。


「ここは病院だからな。痛いところがあったら全部治せるんだ。他の痣も見せてくれるか?」


 返事の代わりに維蕗は後ろを向いて服をめくった。

 背中の真ん中から左下に掛けて、りんご大の赤黒い痣が現れた。

 お互い正面を向いてボールを投げ合うテンカではできない箇所だ。

 日常生活でぶつけてできる痣にしては大きいと言える。色も濃く、かなり強い衝撃だったと思われる。そして、比較的新しい。


 維蕗からは既に「忘れた」と回答が為されている。

 改めてどうしたのかを尋ねたところで、真実が語られるとは思えない。むしろ隠すことで回避したかったリスクへの恐れを顕在化させてしまえば、心も頑なになろう。


(親に訊くしかないだろうな……)


 納得のできる答えが得られる可能性は五分以下だろうか。

 だが、反応から読み取れるものもあるはずだ。あってほしくないが、もし虐待ならば、うろたえるか目的外の診察をしたとクレームをつけて来るか、いずれにしても虐待をしてしまうような精神状況に追い込まれている人物ならではの脆さはどこかに露呈する。

 知らなかったと驚かれる可能性は高そうだ。九歳ならひとりでお風呂に入る子は珍しくはない。維蕗が痣の原因を隠した理由があるのなら、同じ理由で親にも隠していれば本当に知らなかったということはあり得るだろう。


 知らなかったと言う答えで、それが嘘だった場合は厄介そうだ。

 親がその痣を認識していながら、知らなかったと嘘をつく理由があるとすれば、知られることで損をする場合だ。

 例えば自分の子どもがいじめなどを受けていて、それを知られるのは世間体が悪いといった考え方の持ち主なら隠そうとするかもしれない。しかし、最近の若い父母像からはピンとこない。子どもは守るべき大切な存在で、傷つけられようものなら被害を声高に主張するようなスタンスの方が多いのではないだろうか。

 ましてすでに医者に認められてしまっているのだ。一旦知らないと事象の進捗を先送りしたところで、何らかの措置或いは解決に向かわなくてはならないのだ。あまり意味があるとは思えない。


 もう一つ考えられる理由があるとしたら、自身も含め、加害者を知っていながら知らないと嘘をついている場合だ。

 これは、加害者側を守る意識に他ならない。

 もし自らなのだとしたら、「虐待をしてしまう精神状況に追い込まれている」のではなく、冷静な判断力を持ちながら、若しくは、既に日常化してしまって麻痺している感覚で、虐待を行っている可能性がある。

 意識して行い、意図して隠そうとするなら、暴く側は敵にしかならず、その口から簡単に真実が語られることは無い。


 だれも疑いたくはないが、子どもに傷がありそれを隠しているという事実がある。

 そこには原因があり理由があり、それが子どもの安全に関わる問題である可能性がある。

 原因の部分がひとの手に依るものなら、どこかの誰かが主体者であり、判明するまでは世の中全ての人間に主体者である可能性は残るのだ。

 真実を詳らかに、などと驕る気はない。

 ただ、未病の考え方と同様、怪我を未然に防ぎ、安全を確保し、精神的な安寧を計ることは医者の領分だと思っている。

 地域医療を標榜しようとするクリニックとしても必要な機能だろう。

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