少年の怪我
一週間後、訪れた少年の経過は良好だった。
治療は終えたと言って良いだろう。テンカの話で距離感が縮まったのか、痛みが薄れたからなのか、ただ我慢強い子との印象だった少年は、快活さと遠慮を兼ね備えた性質であることが分かった。
少年は維蕗という名だった。
維蕗は会話の口火を切ることはしないが、こちらからの問いへの答える際の言葉数はむしろ多いくらいだ。
話し好きではあるように思えた。
言葉遣いは荒くはないが、物言いは明瞭で語尾が曖昧にトーンダウンしたりはせず、自信なさ気な言い方もしない。
「突き指はもう心配いらないだろう。テンカもやって良いけど、気を付けるように」
「はーい」素直に頷く。
聞いたところ、維蕗たちがやっているテンカは俺の知っているルールとあまり変わらなかったが、使うボールはバスケットボールらしい。
サッカーボールと比べても固く大きい。九歳の子どもが扱うには難易度が高いが、その難易度を求めての採用らしい。
ルールがエスカレートしていくのは子どもの遊びの宿命だが、行き過ぎると大抵ブームが終焉する。
ルールの追加ではなく、使用するボールをマイナーチェンジし、技の難易度が上がることで成功時のカタルシスを得、お互い得点が取りやすくなることでゲーム自体がスリリングになっていて、ルール自体はシンプルなままでインフレはしていない。
流行の息の長さの所以に触れた気がした。
「前回腕や足にできたばかりと思われる痣が認められたが、それも薄くなっているな。突き指が治るまでテンカを控えていたのだろうから、新たな痣ができるわけもなく突き指同様痣も自然と治っていくのだから当たり前か」
「はい、まぁ」
おや? と思った。
維蕗にしては歯切れが悪い。
「痣はテンカでできたものではないのか?」
「ううん、これはテンカやってできたやつだよ。これとかも」
薄くなった右の二の腕や左ひざの上にあった痣の跡を指した。
「他の痣は?」
何かが引っ掛かった。
維蕗はなんとなく嘘が付けないタイプに見えるが、子どもは大人が思っている以上に嘘をつく。
悪気の有る無しに関わらないが、特に自分の身を守るための短絡的な嘘は簡単につく子が多い。自分の身を守ると言っても、ちょっと怒られるとか、その程度のことでも場当たり的な嘘で回避しようとする。だから悪い、というのではなく、子どもとはそういうものであるのだ。
だから、「他にも痣があるのか?」ではなく、他に有るのを前提に、それが「どうできたのか」を尋ねた。
子ども相手にカマを掛けるような形になってしまったが、維蕗を追求したいわけではない。
プレッシャーを与えないよう自然に回答を導こう。




