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東風クリニック

 東風クリニックは地域に根差した個人経営の小さな病院だ。

 内科、外科、整形外科、小児科、皮膚科に関する診察や治療のほか、地域の人々の健康管理や病気の予防などを担いながら総合病院との連携を取り、地域医療構想の一助となるような機能を目指している。


 人口急減・超高齢化社会を目の前に迎えている我が国としては珍しく、人口増加数・人口増加率ともに高く、且つ若い子育て世代の転入者が多いこの街は、必然子どもの数も多い。

 当院は子どもの多い街の小児科があるクリニックなので当たり前と言えば当たり前なのだが、子どもの患者が目立つ。



 突き指の処置を終えた九歳の男の子に、当院の誇るベテラン看護師の魚躬(うおみ)さんが、見るものすべてに安心感を与える笑顔で声を掛けながら、氷砂糖を振舞っている。

 小学校低学年の子どもにとってはかなり痛かっただろうに、泣き言ひとつ言わずおとなしく治療を受けた少年に与えられるフィーだ。


 昨今、他人の子どもに食べ物を与えるという行為に厳しい向きもあるが、魚躬さんがうちに来てくれた先代の頃から続く当院の名物のひとつである。

 事前に保護者の許可を求めるようにはなったが、この風習は無くしたくはなかった。

 今時もっと子どもが喜ぶお菓子などいくらでもあるが、魚躬さんが笑顔で渡す氷砂糖であることに価値があると思っている。単なるご褒美ではない。小さな身体の中に抱えた不安と痛みを超えた先に用意された、心をほっとさせるわずかな甘みは、治療の一環とさえ思っている。



「随分と我慢強い子だったな。ボール遊びで負った怪我らしいが……いくつか痣が確認できたが、それもボール遊びでできたものだろうか?」


 少年は触診時や処置の際に已むに已まれず患部を強く押すように触る場面があっても、多少顔をしかめる程度でうめき声ひとつあげずに堪えていた。

 我慢強い子だから痛みに強いため、遊びともいえないような遊び(例えば下校時に意味もなくガードレールの上を綱渡りのように歩いてみたり、低い石垣から、階段を使わず飛び降りてみたり)で無茶をしていくつも痣を作るような生活をしている可能性はある。俺の子どもの頃にもそんな子どもらはいたし、俺自身だって不用意な行動で無意味なケガを拵えたことも一度や二度ではない。


 だから、子どもと痣を安易に虐待やいじめなどと結び付けるつもりはない。

 腕白な子どもやスポーツに夢中になっている子どもの傷が絶えないことなど、我が身の子ども時代を思えばさほど珍しいものでもない。

 それでも、ここ数年目立ち絶えない子どもが巻き込まれる、事件と言って差し支えのない許しがたい日常は、気にしてし過ぎるということはないと思わせた。

 杞憂に終わるのなら、それで構わない。

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