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戻らないと決めたから

 八木さんは、少し真面目な表情をした。

元々硬い表情でいることが多く、初対面では生真面目な印象を与えるが、付き合いが長くなると、そんな表情でもリラックスしていたり楽しんでいたり、内心怒っていたりと、意外と差があることがわかってくる。今は少し本気であることが伺えた。

 辞めたばかりの人間に、戻ってきてくださいよーなどと、残った後輩などが多少お世辞込みで言うようなノリはよく見受けられるが、八木さんの「結構本気なんですよ?」と言った声が聞こえてくるようだった。


「主事は前線でいることと商業施設担当を条件に出されたんですよね」

 少し本気の表情のまま、八木さんは切り出した。


 そうだ。入社が決まり、条件のすり合わせ時にマネジメント層の待遇を辞退し、それよりも低い給与で前線にて実績を上げることを提案した俺は、代わりに担当領域を指定させてもらった。

 メジャーでの実績も伴う俺のプレゼンは現実的かつ魅力があると思ってもらえたようで、更に人件費も押さえられるのだから、前例などに縛られない地方の企業はあっさりと俺の提案を受け入れてくれた。



 俺には、いや、俺と羽龍には計画があった。

 佐田に入り、この地の都市開発の商業施設を担当することは、計画の大詰めで必要な要素だったのだ。



「この街は新駅開発に沸いてはいますが、実態は直截的な人口増加の施策、要は宅地開発一辺倒です。ずっと第三の独壇場です」


 八木さんは言葉を続けた。当然俺も熟知している内容だったが、新卒からずっと所属していた組織、自分の立ち位置、そこに対する思いや考えを整理するように話す八木さんを、俺は邪魔にならない程度に相槌を打ちながら、その言葉を聴いていた。


「もちろん新たな計画では商業施設もありましたが、あくまでも宅地を売りやすくするための付加価値程度で、市からの持ち込み案件も多く、第三のおこぼれを第一はこなすだけという関係性でした。そんな第一だったので、とにかく楽したい大上課長にとっては天職だったし、会社もさほど期待はしていないので、こなすことには長けている大上課長に任せていました」


 部の仕事が増えるのは困るが、優秀な部下が全てやってくれて、その仕事を承認するだけで良いなら、他の課長にとっては手に負い兼ねる人材も、大上課長には得難い人材だった。その人材側から指名が入っているのだから、諸手を上げて受け入れたのだという。


「拡大するだけした第一の事業は、高天主事を失うに当たって、いよいよ課長自ら出張などもこなさなくてはならないような状況になっているんです。

あの課長が前線に出ているんですよ? 信じられます?」


 確かにイメージはしにくい。しかし、その状況は因果関係など追求するまでもなく想像のできる当然の帰結といえるものだった。


「もし戻りたいと言えば、課長も強力な後押しをしてくれます」


 大上課長はそのスタンスの割に、いち担当に過ぎない俺がプロジェクトの方向転換を推し進めるに際して、第三や用地からの風当たりが強くなっていた第一を、そして俺を、守るような動きを見せてくれていたことを知っている。

 それが自分が楽するためという目的だったとしても、部下を守る行為であったことに変わりはない。


 それでも、八木さんにも課長やメンバーにも申し訳ないが、戻るつもりはなかった

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