知ることになった事実
当時忌むべき敵だと思っていた住人たちの裏には、佐田都市開発の影があった。
エリアは少し異なるが、旧来のこの街の一部として一緒くたにし、俺たちの計画に於ける一掃の対象にしようと思っていた旧駅を中心に広がる商店街。
その商店街のメンバーが、俺たちが街への絶望を感じていたあの頃より少し前に、商店街の再起を目指して興した祭りを盛り上げる役を担わせるべく立ち上げた『ソルエス』のサンバ指導をしていたのが、俺たちの師と同一人物だった。
流石にもう大人だ。
今更佐田が悪だとか敵だとか言うつもりはない。(実際はそれなりに際どい部分もあるから、悪ではないとは言い切れないが、そも、善悪を判断基準にするほどピュアではない)
当時見えていなかった真実を識ることが、ついでに己の矮小な我執を客観視させる機会をくれただけのこと。
夢中になっていた趣味に、突然冷めてしまうなんて別に珍しくもあるまい。
だから、と言うと極端かもしれないが、仕事も辞めた。元々の目的のための手段として就いていた仕事である。その目的を失ったのだ。もはや目的のための手段を続ける意味もない。
糧を得るための仕事として割り切っても良かった。仕事そのものはうまく行っていたし、待遇も悪くはない。
それでも、続けても良いと思えなかったのは、やはりそのやり口には思うところがあったということか。
無論社会人として仕掛かり中の仕事は全うした。
駅中心の都市開発については案件の規模が大きかったと言うのもあるが、結論としては商店街とは協調路線を敷くことになり、その調整にも多少時間が掛かったが、道筋は整えた。あとは手順に従い進めていけば良い。もう俺でなくてはならない仕事などないし、本来組織で動いている仕事だ。属人的であってはならない。誰がどのタイミングで引き継いでも、問題があってはならないのだ。
そうして、仕事を辞め時間を持て余した俺は今、サンバなどをやっている。
同じ師を持つハルの言葉も、その理念も、正直に言えば馴染みが良いと思っている。たぶん羽龍もそうだろう。