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カラーセラピスト ベアトリスの相談室  作者: 香田紗季


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7-9 勝利

読みに来てくださってありがとうございます。

短めです。

よろしくお願いいたします。

 医療テントでは、作戦が変更されてから負傷者が大幅に減り、食事や休憩もしっかり取れるようになっていた。治癒医官の治癒に頼りすぎないようにと神殿長が使わしてくれた薬の巫女の、薬草を使った自然治癒との組み合わせがうまくかみ合ったということもある。ラウズールはベルトラントと相談してシフトを組み直し、医官たちの体力が少しでも回復するように調整した。


「ラウズール、君は疲れてくると必ずそのブレスレットに触れているが、意味があるのかい?」


 緊急時に軽傷をつけて呼ぶのももどかしく、お互いに敬称なしで呼び合うようになっていた騎士団付きの医官ベルトランが、シフトの書類の写しを作りながらそう言った。ラウズールは静かにブレスレットに触れると、これは恋人が作ってくれたラウズールのためだけのお守りなのだと説明した。ラピスラズリの紺色に触れていると、ベアトリスの深い紺色の髪と瞳を思い出す。


「そのイヤーカフもかい?」

「ええ、彼女と豊穣の巫女が相談して、私を癒やすために作ってくれたものなんです」

「君の恋人はデザイナーか何かかい?」

「いいえ、カラーセラピストです。前線で今、魔物の動きを封じるお守りを使っているでしょう? あれ、元々私の恋人が私に持たせてくれた『お守り』なんですよ」

「ああ、ベアトリス嬢とか言ったか。彼女の名前はいろんな所で聞くが、ラウズールの恋人だったのか」

「え、ええ・・・」


 ビーチェ、君は有名人になったらしいよ。


 こんなことを言ったら目を白黒させて困るだろうな、とその顔まで思い浮かべてラウズールは微笑む。


「ほう、君にそんな顔をさせるのか、君の恋人は。いつかはお会いしたい者だ」


 ベルトラントには既に家族がいる。双子の娘がいたが、長女には何かの能力があったらしく、国に召し上げられてそれ以来会っていない。「軍」にいたとしても、ようやく見習いに入るくらいの年だ。それに、会ってももうお互いに分からないだろう、と寂しそうに話していたことを思い出す。次女は能力が特に発現しなかったため、家族3人で暮らしているとも言っていた。


「君の恋人は、この戦いが終わったらいろいろと状況が変わるかもしれない。どうしても手放したくないなら、帰ったらすぐに動くことだ」

「来る前に、結婚は申し込み、本人からは了承を得ています。帰ったら、彼女の父上に許しを得に行くことになっています」

「それなら大丈夫だろうが、才能が豊かだと目をつけられれば、神殿でも騎士団でも上層部の方から横やりが入る可能性がある。ラウズール、君は神殿長が後ろに着いている。何かあれば神殿長に泣きつくといい」

「そうですね」

「俺は頼りにしてくれないのか?」


 思いがけない声に、ラウズールの肩がはねる。


「レイ団長! どうしたんですか?」

「団長、作戦の方は順調でしょうか?」


 二人から一斉に言われて、レイが苦笑いする。


「作戦は順調だ。やっと重傷者の見舞いができるくらいに、な。ビーのおかげだ。最も、アデルが自分も作ると駄々をこねたことが大量製作に繋がったらしいから、半分はアデルのおかげかな」

「惚気ですか?」

「まあ、そういうことにしておこう。ラウ、お前俺のことは頼りにしてくれないのか?」

 

 ラウズールの知らぬ間に、自分はレイ団長からラウ呼ばわりされる人間になっていたらしい。


「頼りにしていますよ。レイ団長に頼めば、少なくとも辺境領内の騎士団には脅しが利くでしょう?」

「脅しとはなんだ、ひどい言い草だな」


 2人のやりとりに、ベルトラントが笑い出す。


「2人がそんなに仲がいいのだとは知りませんでした。騎士団では見られないお姿ですな、レイ団長」


 レイは重傷者を一通り見舞うと、ラウズールのことが少し心配でこちらに立ち寄ったのだった。


「そうだな。帰ったら『ダブルデート』でもするか」

「ダブルデート?」

「2組の恋人が一緒にデートをすることらしい。以前新入りの騎士団員が言っていた。俺も興味はある。顔を貸せるだろう?」

「ビーチェ次第です」

「ビーはアデルが言えば付いてくるさ」

「・・・楽しみにはしませんが、ビーチェに頼まれればお付き合いしますよ」


 ベルトラントがぶはっと笑い出す。


「団長がデートの話を人前でするとは・・・いいことですよ。私は団長の恋を応援しております」

「ありがとう」


 妙に様になる男だ、とラウズールは思う。そんな男に同等レベルに扱われることは、悪くない。


「ラウ、お前がシルトにビーチェのお守りを渡していなかったら、俺は今生きていなかった。礼を言う。だから、ビーをお前から奪おうとする者がいれば、必ず俺に相談しろ。何としてでもお前たちを守ってやるから」

「ありがとうございます。その節はよろしくお願いいたします」


・・・・・・・・・・


 余裕の生まれた討伐軍に、さらに喜ばしい知らせが届いたのは5日後だった。


「『澱み』が1.5メートルまで縮小し、魔物が見えなくなりました」


 さらに3日、様子を見た。出てくる魔物はいない。レイは見張りを増員した上で、領都の町に凱旋することにした。重傷者はいるが、騎士に復帰できない者はいない。死者なしで討伐を終えるのはおそらく今回の派遣が初めてのケースだ。


 みんな、早く帰りたいという顔をしている。親を、夫を、妻を、婚約者を、恋人を、子どもを、みんな1日でも早く見たいのだ。自分の姿を見せて安心させたいのだ。


「引き上げる。全軍、続け!」


 騎士も、神官や巫女も、みんな満足した顔をしている。魔物に勝ったのだ。


「帰ろう。家へ」


 レイが大きな声で叫んだ。

読んでくださってありがとうございます。

赤の章はカラーセラピーがさらっとしか出てきませんでしたが、赤には命、戦争といったイメージもありますし、心理面ではストレスなどもあらわします。

次回から第8章金の章です。

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