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カラーセラピスト ベアトリスの相談室  作者: 香田紗季


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7-7 お守りの力

読みに来てくださってありがとうございます。

ちょっとだけ戦闘シーンがあります。

苦手な方はお気をつけください。

よろしくお願いいたします。

 『澱み』から魔物があふれ出して12日目。


 10日目の昼には援軍の要請をアイクに託した。11日目の昼には領都の町に着いたはずだ。第2派遣部隊の半分はいつでも出発できるようにしてから出てきたが、もう半分は支度を終えるかどうかという頃のはず。それも、予想より3日早く魔物が溢れたことで、計算が狂ったからだ。11日目の内に出発していれば、今日の昼には援軍が来るはず。レイは援軍が来る時間を頭の中で計算し、どの部隊を入れ替えるか、作戦を練り始めた。


 幻影を見せる能力を持つ神官の力が効果を発揮して、魔獣たちの一部が罠を仕掛けた方向に進み、待ち伏せして一網打尽にする、という方法もとれるようになったが、神官1人が見せられる幻影は当然1つ。つまり、1グループだけにしか通用しない。それでも、バラバラに襲ってくる魔獣を相手にするよりは、遙かに効率的だ。10秒先見のシルトも頑張ってくれているので、今のところ負傷せずに最前線で声を張り上げている。


 レイはこれまで、国を力で守るのは「武」の能力者だけだと思っていた。だが、様々な能力を持つ者と共闘することで、思いも寄らない作戦を実行できたり危険を回避できたりする現状を目の当たりにし、武力だけに頼るのは間違いだと骨の髄まで理解できるようになっていた。アイクが気づいたように神殿を病院としか見ていない庶民もいるが、実はバラエティーに富んだ能力者の宝庫であり、決して軽んじていいところではないのだ。


「今日中に援軍が来るはずだ。そこまで保たせよう。例の、火を使った作戦はどうなっている?」

「まもなく開始できます。今、細い薪に油を染みこませている所です。よく燃えるはずですよ。足止めできるだけでもいいので、効いてくれるといいのですが」


 オリスが経過報告をする。オリスは自分が余り賢くないと思っているが、「武」だけの能力者の集団である「軍」属の中では目端が利く方である。そうでなければ、近侍などできようはずもない。


「計画実行は小隊長の判断でいい。森が燃えたら豊穣の巫女殿が再生してくれるから、気にせず派手にやれと伝えろ」

「承知」


 ラントユンカーが傍にいるからか、オリス自身が伝令役となって最前線に向かっていった。レイは何となくオリスに声を掛けねばらならないような気がして、その背に向かって行った


「無茶するなよ」


 オリスは振り返ると、いつもの真面目な顔で礼儀正しくお辞儀をして最前線へ向かって行った。


「増援部隊が早く来るといいですね。騎士たちが休めます。ただ神官たちの代わりはいないので、追加派遣があるといいのですが」

「戦闘終了後に向いた者はそれなりにいたが、戦闘に向くのは基本的に初めから『軍』属になるからな。『統治』の文官の中にはむしろ戦闘にも向いた者はいる。群を抜いていないと文官教育が優先というのも、考え直すべきかもしれないな。高位の文官が護衛を減らせれば、それだけ『軍』に残せる」

「そうですね。今回、交代要員も含めて3000人の騎士に派遣命令を出しましたが、そんなものでは済まない可能性もあります。そちらについても少し考えておきましょうか」

「ああ、そうだな」


 レイはもう一度最前線の方を見た。かすかだが、確かに戦闘中とわかる音が聞こえる。


 早く終わってくれ。


 誰もが思うことを、レイも思った。


・・・・・・・・・・


 1時間経っても、オリスが帰ってこない。さすがのレイとラントユンカーもおかしいと思い始めた。


「あいつ、まさか戦闘に参加しているのか?」

「劣勢になっているのを見かねて思わず、ということはあり得ます。もしくは、現場の小隊長からの要請があったのかもしれませんよ。1番考えたくないのは・・・」


 ラントユンカーが珍しく言いよどむ。


「火を使った作戦に何らかの問題が生じて動けなくなった可能性もゼロではありません」

「様子を見に行く」

「お待ちください。ここに団長がいなかったら、誰が・・・」

「おい、イゾルダ、その辺にいたな?」

「団長、お呼びですか?」

「最前線を見てくる。俺が不在の間、お前に団長代理を任せる」

「了解。気をつけてください」

「ああ」


 イゾルダは黒龍騎士団の女性幹部の1人で、冷静な分析に定評のある人物だ。何かあっても慌てず騒がず対応できる人物だと、レイは信頼している。


 レイはラントユンカーの他に騎士を五人連れて最前線に向かった。次第に戦闘の音と怒号が大きくなる。ある程度まで見えた所で、一旦様子を見る。


「『澱み』はまだ小さくなっていないな?」 

「最大のままと思われます」

「狼型以外の魔獣は?」

「記録にもありませんが、今回も出ていません」

「撃退数・・・ なんて数えている暇はないな。全部終わったら数えさせろ」

「了解」

「では、もう少し前に出るぞ」

「御身は大切な身です。私の後ろに」

「ラント、不要だ」


 レイの目が光る。


「換えは、いくらでもいる」

「団長は団長です。それに、待っていろと言っておいた女がいるのでは?」

「戻ったらお帰りと言えと言っただけだ」

「同じことです。15歳の娘の心に傷をつけてはなりません。まして、相手は豊穣の巫女です。彼女が悲しめばたとえこの討伐が成ったとしても、国が飢える。あなたは民が飢える姿を望んでいないはずだ」

「・・・」

「いいですね。私の後ろに」

「分かった」


 周囲に気をつけながら、そろりそろりと近づく。


「あれは?」


 騎士ば何人か倒れているが、後方に運び出す人員がいない。そして、オリスが剣を振るっている。オリスは大槍の遣い手だ。長剣を使っているということは、槍が使えない状態になったということになる。槍と剣では、間合いが異なる。槍に優れた感覚を持つオリスには長剣でも短かすぎるはずだ。


 近づくと、果たして槍が捨てられていた。血糊で使ええなくなったのだろう。並の騎士よりは遙かに強いが、オリスを活かせない剣での戦いにオリスが苦戦しているのが分かった。


「倒れている者を運ぶこともできない状態か。お前たち、倒れている者をここまで連れてこい」

「5人ともですか?」

「1人でも多く、少しでも早く治癒を掛ければ、前線に戻るまでの時間を短縮できる。それに、俺にはラントがいる」

「分かりました。2人1組で行け。1人は見張りだ」

「了解!」


 5人の騎士が素早く動く。戦っている者の邪魔にならないよう、慎重にタイミングを見、魔獣に襲われないよう気を配って移動する。オリスもこちらに気づいたようだ。


「団長、新しい剣か槍はないか?」

「俺の剣だ、使え!」


 オリスに剣を鞘ごと投げる。オリスは左手ではっしと掴むと、長剣一太刀なぎ払って魔物の目を潰すと、レイの剣で心臓にとどめを刺す。


「団長! ご自分を守るためのものです!」

「俺にはまだ2本目も、ダガーもある」


 その時だった。一頭の魔獣が防衛線を突破し、レイに向かって飛びかかってきた。


「団長!」

 

 レイの目に、魔獣がゆっくりとこちらに飛びかかってくるのが見えた。時間がゆっくり流れているように感じる時は、死が近い時だと聞いたことがあったな、とレイは思った。


 これで、終わりか。アデル、済まない。


 レイが覚悟した時、2方向から団長と呼ぶ叫び声が聞こえた気がした。そして・・・


「・・・何が起こったんだ?」


 レイの前には、矢が1本、額に突き刺さって絶命した魔物がいる。そして、周りの魔物たちの動きが明らかに鈍くなり、騎士たちに次々と屠られている。周りにいた魔獣たちは全て倒され、「澱み」から1頭ずつあらわれる魔獣は、こちらに足を踏み入れると同時に倒されるという、先ほどとは全く違う戦況となっている。


「団長! ご無事ですか?」


 前方から、先見の神官シルトが、後方からは伝令に行かせたアイクが走ってくる。ラントユンカーが青い顔をしながらレイを助け起こし、ご無事でよかった、と繰り返しつぶやいている。


「何があった?」

「シルト神官が先見で団長の危険を察知し、何かを投げたとたん、周りの空気が変わりました。魔獣たちの動きが鈍くなったんです。その直後、後方からアイクが矢を射て、あの魔獣の額を割りました」


 レイは冷静さを取り戻した。


「シルト、お前何を投げた?」

「ラウズールからもらった、ベアトリスさん特製のお守りです」

「お守りか。空気が変わったと言ったな」

「はい。清浄化されたようです。魔獣は、浄化に弱いようですね」

「浄化か。だが、お守りなら1つしかないか」

「それが、違うんです」

 

 アイクが口を挟んだ。


「神殿の皆さんが、同じお守りをたくさん作って僕に持たせてくれたんです。相当数ありますから、1人1つ持った上で、魔獣を何匹かまとめて弱らせるのにも使えると思います。それから、神官が1人、こちらに向かっています。この鏃を作れるんですが、これ、『必ず当たる』んだそうです。ただ、材料の水晶がなかなか集められなかったことと、1日20個までしか作れないと言うことで、僕がまず10本先発で預かり、神官はこれまでに作った分とこれからここで作る分を持って、増援の2軍と一緒に来ることになっています。僕が使ったのがその神官が作った鏃をつけた矢なんです。必ず当たるって、すごいですよ。ここぞという時に使えます!」


 神殿には、そんな能力者もいたのか。レイは驚嘆した。それと同時に、ベアトリスがラウズールに渡し、神殿がたくさん追加で作ったというお守りをうまく活用することを考えよう。魔物が初めから弱くなっているだけで、騎士の負担は随分減るはずだ。


「それから、豊穣の巫女様からお預かりした品と言葉です」


 アイクは小箱を渡した。レイは、中に会ったルビーのカフスボタンに瞠目する。


「赤はリーダーの色。ルビーはあなたに最もふさわしい石だと信じている。そう、巫女様は仰いました。団長なら、この意味が分かると」


 ああ、そうだ。俺はこの魔物たちから国と民、そしてなにより今ここで戦っている騎士や神官たちのリーダーなんだ。そして、ルビーの石言葉は・・・


「威厳・優雅・愛の炎・・・か」


 威厳を持ったリーダーとして戦ってこい、これはアデルトルートからレイへ、愛を籠めたものだというメッセージだ。


「アイク、今後方待機している小隊にお守りを持たせて最前線の騎士を交代させろ。小隊長には説明すればいい。矢のことはまだ伏せておこう。我々は負傷者の運搬を兼ねて、医療テントに向かう」

「承知しました」


 明らかにこちらに有利な状況になった。あとは、いつまで魔物の溢れが続くか、だ。


 レイはアデルトルートからもらったカフスボタンを握りしめる。ルビーの赤がレイを鼓舞する。戦い方が、定まった瞬間だった。


読んでくださってありがとうございます。

お守りパワー炸裂!


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