表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラーセラピスト ベアトリスの相談室  作者: 香田紗季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/67

7-2 魔の森へ1

読みに来てくださってありがとうございます。

12時の更新分は短めです。

並行して書いていたものが昨晩完結したのですが、アクセスが急に増え、こちらにも飛んできてくださった方がいらっしゃるようです。とても嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

 「澱み」を見張っている騎士から、緊急連絡が入った。


「『澱み』がわずかずつですが、拡大を始めました」


 記録通りなら、この「澱み」が直径1.5メートルになると魔物の姿がその向こうに見えるようになる。その10日後に2メートルほどの大きさになると、魔物たちがあふれ出すのだという。


 時間は、まだ10日間はある。レイは緊急招集と緊急配備を指示した。準備させている間に神殿に行き、借りられる能力者のリストを手に入れた。


「先発隊500名と兵站部隊300名を動かします。少し離れた場所に医療設備を設置、医官はそちらにて待機となります。前線に医官を出すつもりはありません。負傷者等は医療設備まで運ばせます。医官は・・・15名、ありがたい。騎士団所属の医官と合わせて30名、外科多めで対応、これも助かります」


 ラントユンカーが説明しながら、神殿のリストと照合していく。


「他に、生き物の意識を逸らせる者、動物と意思疎通できる者、幻影を見せることができる者、薬草に詳しい者、植生を元に、戻せる、者・・・」

「おい、植生を元に戻せるとは、まさか」

「ええ、アディですよ。ああ、食糧不足になっても促進効果を掛けてすぐに食糧も調達できる、とありましたね」

「神殿長、どういうことだ!」

「本人が提出したものです。そこに、私の恣意は入っておりません」

「アデルと話してくる」

「団長!まだ打ち合わせが」

「お前がやっておけ、ラント。おい、オリス、お前はニーナの所に行ってこい。俺が許す」

「はい、ありがとうございます!」


 レイは信じたくなかった。なぜアデルトルートを魔物たちとの戦いの場に連れて行けというのか。アデルトルートの気持ちも理解できなかった。危険から一番遠ざけておきたいと思っている相手なのに、なぜ伝わらない?


 アデルトルートの部屋の前の護衛騎士に目配せし、ノックもせずにレイはアデルトルートの部屋に入った。


「アデル! どういうことだ!」

「あら、レイ様、どうかなさいました?」


 いつも通りのふわっとしたアデルトルートがそこにいた。レイの雰囲気がいつもと違うことに気づいてはいるようだ。


「お前、なぜ魔物たちと戦うメンバーに入っているんだ?」

「あら、私、最前線で戦うわけではありませんよ?きっと戦いの中で、森が焼けたり踏み荒らされたりするでしょう? だから、全部が終わったら、豊穣の巫女として森の再生をしますって書いたんですの。あ、食糧の方かしら? それは兵站に問題が発生したら、ということで、最初から行くことなんて考えていませんわ。だって・・・」


 アデルトルートは艶やかに笑った。


「レイ様が、私なんか出る必要ないように、退治してくださるのでしょう?」

「アデル・・・」


 レイはアデルを抱きしめた。


「レイ様、以前にも言ったとおり、私は・・・」

「これが、最後になるかもしれないから」


 レイの言葉に、アデルトルートの表情が、体が、ピシッと硬直する。


「俺は帰ってくるつもりだ。誰1人死なせないつもりだ。だが、相手は記録にしかない奴らだ。いつ終わるのかも分からない。このドゥンケル辺境領騎士団が全滅して、周辺の騎士団や軍の直轄部隊が出てやっと持ちこたえたこともあったと聞く。『澱み』に動きがあったから、俺はもう魔の森に出発しなければならないんだ。『澱み』が小さくなるまでどのくらいかかるか分からない」


 レイの声が、いつもと違ってかすかに震えている気がする。


「俺だって本当は怖い。だが、部下の前では一切そんなこと言えない。アデル、こんなこと言えるのは、お前だけなんだ。だから、安全な所にいてくれ。俺が帰ってきた時に、お帰り、って言ってくれ。アデルが待っていてくれると思えば、俺も生きて帰ってこようと思えるから・・・頼む」


 もう少しだけ、このまま。


 アデルトルートは混乱していた。こんなに弱々しいレイの姿を見るのは初めてだ。自分の中に、レイに対する、他の男性とは違う思いがあるのは気づいている。だが、それはまだ熾火のようなもので、レイのように言葉にできるほど、大きなものではない。アデルトルートは迷ったが、そっとその手をレイの背に回した。


「・・・アデル?」

「豊穣のお祈りを、レイ様の体に掛けます。どんな効果があるか分からないけれども、私から、レイ様を少しでも守る力を・・・」


 レイの腕の力が強くなる。レイの胸に頭を押しつけられるように抱かれているせいで、レイの表情がアデルトルートからは見えない。前髪を掻き上げられている、と思った次の瞬間、額に柔らかいものが触れた。


「レイ、様?」

「アデルはまだ半分子どもだからな、これで我慢する」

「・・・!」


 もう一度、柔らかいものが触れ、離れていった。


「行ってくる」


 唐突にアデルトルートと離すと、後ろも見ずにレイは去って行った。


「アディ様?」

 

 トリシャがそっと腕に触れる。


「大丈夫ですか?」


 アデルトルートは、トリシャがハンカチを顔に押し当てたことで、初めて自分が泣いていたことに気づいた。そのままトリシャに縋り付いた。いくら拭っても、アデルトルートの涙は止まらなかった

読んでくださってありがとうございます。

21時の更新分は、ラウズールとベアトリス版になります。

もしかしたらオリスとニーナも出てくるかも?

いいね・評価・ブックマークしていただけるとうれしいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ