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カラーセラピスト ベアトリスの相談室  作者: 香田紗季


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4-5 ラウズールと、庭園で・・・

ラウズール頑張れ!の回です。

二人の過去が明かされる?

 正式な神殿スタッフになったベアトリスは、今日からは来客用受付ではなく通いのスタッフが通る通用口から入ることになる。そこには自分の名前が書かれた札が掛けられていて、通用口から中に入る時には青い面を、帰宅する時には白い面を表に向けて引っかけるのだという。こうすればその人物が神殿内にいるかどうかもすぐ分かる。ここには守衛さんがいて札と人の通りを確認している。さすがは神殿、セキュリティーがしっかりしている、と感心した。


 エドガーに伴われて、ラウズールの執務室の前に立つ。


「ラウズール様、ベアトリスさんをお連れしました」

「入りなさい」


 ドアが開く。書類仕事をしていたらしいラウズールと目が合う。


「おはようございます。ラウズール様」

「おはよう、ベアトリス。今日からよろしく」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


 ラウズールは、自分の机の隣を指さした。


「君の机を用意した。これでいいかな?」


 ラウズールの机とお揃いだが、一回り小さめかもしれない。椅子もお揃いだ。


「ありがとうございます。セラピー用のボトルをもう1つ作ったので、こちらに置いていっても構いませんか?」

「それは、ベアトリスがいない時に、見ても構わない?」

「もちろんですよ」

「それから、この飾り棚の所はどうかな? 奥の板が白いからカラーボトルがの色味がよく映えるし、鍵も掛けられる」

「分かりました。セラピーの時にお気づきになったかしら? カラーボトルは、必ず白い机や布の上でやるんです。そうしないと、他の色を混ざって見えてしまって、正しく選べない時があるんです。あ、アクセサリー用の石やビーズなんかも、多少こちらに置いておきたいのですが」

「それは、鍵のかかるところに入れた方がいい。この部屋にいつも私がいる訳ではないし、患者も来る部屋だ。机に鍵がかかる引き出しが2カ所あるから、そこはどうだい?」

「そうですね。そうします」


 道具をしまい、自分の席に着いてみる。なんだか、とても偉い人になった気分がする。様子を察したのか、ラウズールがクスクス笑っている。


「初日なんだ。緊張しなくていい。私は内科と外科の両方の治療が必要な患者を診るために、担当する患者さんの人数は半分にしてもらっているんだ。今日は新しい患者が来ない限り、君のオリエンテーションをすることになっている。神殿内の『お客様立ち入り禁止』の所にも案内しよう」

「例えばどんなところがあるんですか?」

「そうだな、まずは図書館。禁書もあるから全て読めるわけでではないけれども、町の図書館よりは専門書が多くて読み応えがある。カラーセラピーに関しての書物も少しあったよ」

「調べてくださったんですか?」

「君に手伝ってもらうためには、神殿長の許可が必要だっただろう? だから、調べたんだ。『指針の魔女』以外にもカラーセラピーを行っていた魔女の話もあったし、その手法は君のものとはまた違うものだった」

「どんな方法でした?」

「2色とか3色とか複数の色があるボトルを使う方法とか、色カードを使う方法とか。使うボトルの数もまちまちで、7本くらいのものもあったし、100本くらい使うものもあった。100種類超のものは、きっと勉強するのも覚えるのも大変だろうな。上下の色が違うだけで意味が全く違うらしいから」

「マニュアルなしでセラピーするのは、難しそうですね」

「そうだね。いろんな人がいろんなやり方で、他人や自分の傷ついた心を癒そうとしてきたんだなって思ったら、医官として負けていられない気持ちにもなったよ」

「そこは分業とは思わないんですか?」

「思うことにしたよ。だからこそ、自分の分野だけはしっかり対応できるようにしないとなって」

「『指針の魔女』様は、自分のやり方よりもいい方法が見つかったなら、どんどんその方法を取り入れろって言っていました。刺激って大事ですよね」

「ああ、そうだね」


 ベアトリスは執務室の中について、何がどこにあるのか、1つ1つ教えてもらった。助手扱いのスタッフなので、これから薬を取りに行ってもらったり、処置を手伝ってもらったりすることになると聞かされて、ベアトリスは小さな声で言った。


「ちょっとだけ、血が怖いです・・・」


 見るからに怯えた小動物のような表情に、ラウズールは思わずベアトリスを抱き寄せ、背中をトントンと赤ちゃんを落ち着かせるかのような手つきで軽く叩いた。


「大丈夫、大出血していたら、即処置室行きだ。ここで血を見ることは滅多にないよ」

「あ、あの、恥ずかしいので・・・」


 顔を真っ赤にしたベアトリスが、ラウズールの胸を拳で叩く。


「ごめんごめん。あんまり怖がっている様子だったから、つい・・・」


 恥ずかしがるベアトリスの手をラウズールはしっかり握り混んだまま、薬局や処置室、資料室や医官の詰所など、これからの生活に必要と思われる所を回った。図書館ではカラーセラピーの専門書がある場所を教えてもらい、1冊借りた。薬草園を回って、最後にラウズールがベアトリスを連れてきたのは、あの中庭だった。


「前にも言ったと思うんだが、ここにいる時だけ、自分に戻れる気がしていた。嫌なことがあっても、少しだけ、ほんの少しだけ、忘れることができた。なぜだと思う?」

「きれいな花を見て癒やされたとか? 香りが癒やしてくれたとか?」

「違うよ。ここを見て」


 そこは、ラウズールが過日倒れていた場所だ。その前にはガーベラとクローバーが植えられている。

 

 ガーベラ?


 ベアトリスの心に、何かひっかかるものがある。だがそれが何か、判然としない。


「四つ葉のクローバーは『幸運』っていうだろう? 普通の、三つ葉のクローバの花言葉は『希望』なんだ」

「『希望』・・・」

「黄色のガーベラの花言葉、知っているよね?」

「小さい頃に、花言葉を覚えるのにはまっていた時があったんですが、今はもう余り覚えていないんです」

「そう。黄色いガーベラの花言葉を、僕はあの日から1度も忘れたことはないよ。」

 

 突然、ラウズールの一人称が代わった。


「子どもの頃に、とっても可愛い女の子に出会った。その子は聖歌隊に入るために来たんだけど、人見知りが激しくてね。部屋の隅で震えながら泣いてしまって、自己紹介もできずにその日の練習が終わってしまった」

 

 待って。なぜ同じ情景の記憶があるの?


「僕は、練習が終わった後、その子に声を掛けたんだ。『可愛い花のブローチをしているね』って」


 そう、あの日、父がデザインした小さなガーベラのブローチをつけていた。そのブローチはシトリンのパヴェで、あの頃から1粒の大きな石よりも小さな石の方がベアトリスは好きだった。


「その子は『お父さんが、私がうまくお話しできるようにって、シトリンで作ってくれたのに、やっぱり駄目だった』って言って、泣いていた」


 シトリンには、対人関係に関わる石言葉がいくつかある。その話を父がしたのだろう。きっとあの頃の自分にとっては、大きな期待だったに違いない。


「『じゃあ、ガーベラの花言葉って何?』って聞いたんだ。その子は『黄色のガーベラの花言葉はね、究極の愛、なんだって』って言ったよ」


 ああ、そうだ。他のどの色でもない、黄色のガーベラだったからこそ、ベアトリスは父がどれほど自分を思ってくれているのかを知り、外の世界に出てみよう、頑張ってみようと思ったのだ。それなのに、思うようにいかなくて、父に申し訳なくて・・・。


「僕はね、一生懸命に頑張ろうとしている、その可愛い女の子のことが好きになってしまったんだ。それから、その子が来る日は必ず僕が隣にいて、ちょっかいを出そうとする奴らから庇っていた・・・つもりだった。でも、その子は突然来なくなってしまった。家を出て、別の所で暮らすようになった、この町を出て行ったから、もう会えないって言われてね、すごく泣いたよ。その時に、無理を言って、ガーベラの苗を買ってもらった。その時から、ずっと黄色いガーベラを植え続けている。その子にまた会えるようにって、希望を込めて、クローバーの種も撒いた」


 聖歌隊の練習の時、いつもベアトリスを守ってくれた少し年上の優しいお兄さん。ベアトリスの思い出の中の大切な人は、ラウズールだった。


「僕はね、今度その子に会えたら、その子をずっと傍で守るって決めたんだ。いつか必ず会えるって、希望を捨てずに」


 ラウズールがベアトリスの瞳を覗き込む。


「ずっと会いたかったよ。やっとまた会えたね、ベアトリス。」


 ベアトリスは、目に膜ができてしまったようで、ラウズールの顔がはっきり見えない。


「最近、シトリンの石言葉も調べたんだ。君が言っていたような意味もあったけどね、僕はこの言葉が気に入ったんだ・・・『初恋』」


 ラウズールはそっとベアトリスの肩を抱き寄せた。


「初恋は叶わないっていうけれども、叶えても、いい?」


 そんな言い方、ずるいです。ノーと言う気はないけれども、ノーという選択肢がありません!


「お付き合い、だけ、なら・・・」

「どうしてその先を望んではいけないのかな?」

「ラウズール様は」

「ラウって呼んで」

「・・・ラウ様は、将来を嘱望されています。きっと上層部から、その能力に見合った縁談が」

「来ると思う? あんなに体が弱くて、年に一度は死にかけていた僕に? たしかに縁談は来たことがあるけれど、この年まで全部断ってきた。いつか君に会えた時のために、自分の深層心理が働いたんだと思うよ」

「・・・とりあえず、先のことを考えずに、お願いします。ラウ様も私も、断れない話が来るかもしれませんから」

「分かった。でも、覚えておいて。僕は君が傍にいてくれるから、元気になれたんだ。君がいなくなったら、僕、死んでしまうかもしれないよ」

「・・・頑張ります」


 ラウズールに手を引かれて、執務室に戻る。今日のベアトリスは、顔が赤いままだ。熱でもあるのでは、と通りすがりの神官や巫女たちまでもが心配してくれるが、ラウズールはいい笑顔で


「大丈夫。病気ではありません。病気なら私がもう直しているはずです」


 話し方が仕事モードになっている。今日はもう何も頭に入らないからと、ベアトリスは家に帰ることになった。じゃ、あさってね、とラウズールに言われ、コクコクと首肯して部屋を出る。通用口に行き、自分の名前の札をひっくり返す。守衛さんが護衛騎士の詰め所に連絡してくれたので、送りの馬車に乗った。帰りの護衛騎士は、アデルトルートの部屋の外で待機していたことのある人だった。


「お疲れ様でした。お送りします」


 遠くからラウズールが見送っていたのを、ベアトリスは知らない。


さて、二人はどうなっていくのでしょう?


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