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カラーセラピスト ベアトリスの相談室  作者: 香田紗季


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4-2 業務提携2

短めです。

 ラウズールは、ひどく緊張してた。神殿長からベアトリスを助手として傍に置きたいかと問われた時、相当な喜色だったらしい。


「お前がそんなに分かりやすい男だったなんて、知らなかったよ」


 神殿長は、ラウズールより少し年上の先輩だ。恐ろしいまでに的中する未来視の能力に、頼りすぎないよう重要なことだけを未来視させるよう国王と前の神殿長の間で覚え書きが交わされたと聞いている。本人もこう言うほどだ。


「未来が見えると将来に何の希望も持てなくなるから、できるだけ見ないようにしているんだ」


 未来が見えるというと羨む輩も多いが、何もかも起こることがわかりきった世界というのはきっと退屈なものに違いない。自分でコントロールできる自制心も非常に強く、ラウズールの尊敬する先輩神官だ。そんな先輩に言われた一言で、ラウズールは初めて自分の心の中に生まれていた感情に名前があることに気づいたのだ。


「彼女のことが、好きなんだ」


 神殿長は、ベアトリスと父親がラウズールの補助スタッフになることを了承すればスタッフにしてもいい、確認は自分がすると言ってくれた。そして今、話しあいがもたれている時間である。ベアトリスが人付き合いが苦手だと言っていた。だが、アルドーナへのカラーセラピーを見て、自分にもまだまだ勉強することがあると思えた。いつもうまくいくわけではないとベアトリスは言っていたが、アルドーナは安心して家に帰ることができた。ベアトリスは決してアルドーナに強制せず、思わず話したくなるような、優しい雰囲気だった。一切否定せず、ただ話を聞き、色の示す意味を伝え続けた。


 内科と外科の両方が治癒できる自分と、心をケアできるベアトリスが組んだら、どれほどの効果が出るだろうか?


 もちろん、対外的にベアトリスや周囲を説得するための言い分だ。本心は、ただ、一緒にいたい、それだけだ。


 あれこれ考えていると、ノックの音が聞こえてきた。


「ラウズール様、オトヴァルト氏とベアトリス嬢をお連れしました」


 来た!


 ラウズールは側仕えの神官が今、部屋の中にいなくてよかった、と思った。お茶の準備をしてもらうためと言って部屋を出したのは、そわそわしている自分を笑われたくないからだ。


「どうぞ」


 扉の外にいた護衛騎士が中を覗きこみ、ラウズールに向かって一瞬だけにやっとし、真顔に戻って4人を部屋に入れた。


 まさか聞こえていたのか?


 動揺を軽い咳払いでごまかす。オトヴァルト氏とベアトリスをソファに、ヴァルトを一人がけの椅子に座らせた。自分はオトヴァルト氏とベアトリスの向かい側に座る。


「フォルクラート・オトヴァルトでございます。いつも娘がお世話になっております。また過日は娘を治療してくださいましたこと、感謝申し上げます」

「ベアトリスでございます。いつもお世話になっております」

「医官のラウズールです。ベアトリス嬢には、いろいろお世話になっています」


 ラウズールは個人情報を抜いた形でアルドーナの一件を簡潔に説明し、その対応が患者にとって非常に有効であったこと、それを聞いた神殿長が是非ベアトリスをスカウトしたいと言ったこと、自分自身も是非ベアトリスに一緒に多くの人を救いたいと思っていることを話した。


「そちらにつきましては、神殿長様よりお話を伺い、その場にて娘共々了承いたしました。1つ、ラウズール様にお尋ねします」

 

 父がラウズールの顔をじっと見た。


「娘は心にいろいろなものを抱えております。人間関係を築く上で、難しさを感じることもあるでしょう。神殿内で何かあった時、ラウズール様は娘を必ず助けてくださいますか?」

「勿論です。そうでなければ、このようなお願いはできません」

「ですが、ラウズール様は体調に波があり、娘からもあなたがお倒れになった所に出くわしたことがあると聞いております」

「これまで年に1度ほど、どうにもならないことを心の中に溜めすぎて食事がとれなくなり、倒れることがありました。ですが、先日ベアトリス嬢にいただいたこのイヤーカフを見るようになって、そうしたもやもやしたものを自分の外に捨てることができるようになってきました。今は食事もしっかりとれるようになり、少しずつですが、体も鍛え始めたところです。これまでの活躍で、ベアトリス嬢に好意的な巫女、侍女、神官、護衛騎士もたくさんいます。それに・・・」


 ラウズールはベアトリスを見た。ベアトリスが何でしょう? という表情できょとんとこちらを見る。


「私は先日の治療でベアトリス嬢の技術を見つけ、有効活用する術を見つけたことを功績の1つとされました。今後2人で治癒にあたり、成果を出したならば、そう遠くないうちに医官長にするとのお墨付きも得ております」

 

 随分上の世界の話がベアトリスの知らないところで進んでいるようだ。父はベアトリスと見た。苦笑しているようにも見える。


「ラウズール様がこう仰っている。ならば後は、勤務条件だね」


 こうして、ベアトリスの出勤は週に2日とすること、それ以外の日は自宅でのカラーセラピーを続けてもよいこと、セラピーグッズとしてのアクセサリーの販売を神殿内で許可すること、等が決められた。ヴァルトは書類に必要事項を書き込み、ラウズールに見せる。


「問題ないと思います」


 ラウズールがサインを入れる。ラウズールの名前の下に、ベアトリスもがサインを入れた。保証人として、父もサインを入れる。


「神殿長がこの書類にサインをすることで、契約が発効します。神殿長がサインをした書類の写しは、今度神殿にいらっしゃる時にはお渡しできると思います」


 ヴァルトは書類を書類ばさみの丁寧に挟んだ。


「私はすぐに神殿長に提出して参ります。お帰りになる際は護衛騎士がお送りしますので、今日は失礼しますね」

「ヴァルトさん、ありがとう」

「いいえ、これからは神殿の仲間です。僕の方が先輩ですからね!」

「はい!」


 器用に一人称を使い分けて出て行くヴァルトを見送ると、ラウズールが渋い顔をしていた。


「いつからヴァルトと仲良くなったんだい?」

「よく受付で対応してくれたのがヴァルトさんだったし、ラウズール様が倒れた時に助けを呼びに行ってくれたのも彼だったの。名前を聞いたのは、今日が初めてよ」

「そう・・・」


 隣からぶはっという笑いの声が聞こえた。父が笑いをこらえきれずに、吹き出したのだ。

 

「ラウズール様、娘はいろいろ『分かっていない』と思います。適齢期は過ぎた娘ですが嫁入り前です。ほどほどになさってください」

「わかりました。善処します」

「え、何?」


 父はラウズールとベアトリスを生暖かい目で見ている。


 解せぬ。


 ベアトリスは出勤初日と時間、持ち物を確認し、父と神殿の馬車で帰宅した。父はいつになく機嫌が良かった。


「このまま、ベアトリスを見守ってくれる人であればいいのだがな」


 父のつぶやきは、疲れて眠ってしまった娘には届かない。


お父さん、あまり干渉しては駄目ですよ!


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