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カラーセラピスト ベアトリスの相談室  作者: 香田紗季


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3-5 ご婦人の悩み事は解決しました

よろしくお願いいたします。

「アルドーナさん、その『怖い物』に対してどうすればいいか、アルドーナさんの心の中に答えはあるんですよ?」

「え? そんなことないよ、私こんなに困っているのに・・・」

「人間の心は、私たちが分かっている世界よりももっと深いものです。意識の下に、無意識の世界があって、そこにいろんな考えが押し込められていると考えられています。『怖い物』への対処方を、あなた自身がどう考えているのか本当の心に聞いてみませんか?」


 アルドーナは怯えた様子だった。肩をふるわせ、黙ったまま俯いている。ベアトリスとラウズールは背中をさすり、根気よく待った。やがてアルドーナは顔を上げた。


「やってみる。私の思っている答えが何色か、だね?」

「はい」

 

 アルドーナは一通り、時間を掛けずにボトルを見た。そして、震える手で黄緑のボトルを手に取った。


「この色のイメージが一番近いと思う。」

「それは、ポジティブ? ネガティブ?」

「・・・ポジティブだと思う・・・」


 ベアトリスは、ゆっくりと黄緑のポジティブな意味を紡ぎ出す。


「可能性、希望、始まり、勇気、冒険・・・」

「勇気!」


 アルドーナが叫んだ。

 

「私に必要なのは、勇気なんだわ! そうよ、あんな奴に負けてたまるもんですか!」

「もしよろしければ、何があったか教えていただけますか?」


 アルドーナは強い口調で語り出した。


「うちが陶器職人だっていうことは話したわよね? 大店に納める陶器を作って卸していたんだけどね。15年位前だったかしらねえ、旦那が偶然深い緑の陶器を作ったの。本人も何をどうやって作ってたのか、皆目分からない。それなのに、その陶器を誰か知らないが『偉い人』が気に入ったらしくて、テーブルウエア一式作れって言われたんだ。そんなこと言われても、偶然できたものだから旦那も再現できない。無理だって言っても、いいから作れとしか言われない。そのうち、大店の奴ら、何とか作らせようとして、うちに来て何時間も居座って怒鳴り続けたり、せっかく作った商品を粉々に砕いたり……ここ半年ほどは、作り方を言わないなら私の命を保証しないといって、旦那の目の前で私を殴ったり蹴ったりするようになったんだ。旦那に怪我をさせちまうと作れなくなるかもしれないから、私に手を上げたんだ。私たちはそれ以前の行動で怯えちまって、奴らにやられるままだった。そうじゃない、騎士隊に駆け込んで、助けてもらえば良かったんだよ!」

「そうですね。そんなことがあったから、アルドーナさんは、旦那さんが家で孤独な状態で待っているのを放っておけず、早く帰りたかったんですね」


 アルドーナは、やっと気づけたことが悔しいと涙を流していた。


「どうしますか? すぐに騎士隊に通報しますか?」

「旦那も保護してもらえる?」

「頼んでみますが、難しいようなら、神殿に来てもらいましょう。アルドーナさんの付き添い、という名目で」

「お願いします!」


 ラウズールは騎士隊への通報と、アルドーナの夫を保護するための手続きのため、ベアトリスに「後は頼む」と言って出て行った。


「アルドーナさん、よく頑張りましたね」

 

 ベアトリスは微笑みながらアルドーナに語りかけた。アルドーナは、涙だらけの顔だったが、吹っ切れた様子である。


「ありがとう。たくさん商品を壊されて、収入もほとんどない状況が続いていたから、これから頑張って立て直さないといけないね」

「はい。それでは、アルドーナさん、セラピーの仕上げです。これからも勇気を持って生きていくために、ブレスレットを作りましょう!」

「え、そんな高いもの、買えないよ!」

「屑石判定されたものやあまり高くない石に穴を開けて手芸用に加工したものですから、代金はスープ3杯程度ですよ。石を通すゴム糸も持ってきましたから、勇気のカラー『黄緑』のブレスレットを作って、これから未来は勇気を持って生きるって、思いを改めましょう! それに、これは医療行為の一環でしていることですから、神殿からの請求に入れられます。神殿での治療費は半額が国から補助が出ますので、実質スープ1.5杯です。どうですか?」

 

 アルドーナはちょっと苦い顔をしたが、お守りだと思うことにするよ、と言ってベアトリスが並べた黄緑色の石を選び、ゴム糸に通していった。

 

「きれいなもんだねえ」

 

 ベアトリスがゴム紐の端を始末してアルドーナの手にブレスレットをはめると、アルドーナはまじまじとブレスレットを見つめた。


「この石は、なんていう名前の石なんだい?」

「ほとんどがペリドットですね」 

「陶器でこの色が出せたら、こんなふうにブレスレットにできるのかな?」

「素敵ですね! セラピーグッズは宝石ではなくてもいいんですよ。それに、セラピー関係なく、それほど高くない庶民のアクセサリーとして需要がありそうです!」

「いいねえ。旦那に作ってもらって、売ろうかねぇ!」


 診察室には明るい笑い声が聞こえた。ラウズールが戻ってきて部屋を開けようとした時、その笑い声に気づいた。ラウズールも微笑んだ。全てはいい方向に進むだろうと思えた。


 この後、騎士隊の捜査によって大店に緑の陶器を納めろと言っていたとされる人物が特定された。彼は「これがシリーズで出るなら是非とも買いたい」とは言ったが、無理矢理作らせろとは言っていなかったことも確認された。アルドーナと夫を強迫・暴行していた店の経営者、実行犯は逮捕され、店は信用を失って誰も買わなくなり、破産した。


 家に戻ったアルドーナは、夫に小さな陶器のアクセサリーを作ることを提案し、夫が作ったカラフルなアクセサリーは陶器の販売店や手芸店で飛ぶように売れた。生活を持ち直したアルドーナと夫は、神殿とラウズール、そしてベアトリスに深く感謝し、陶器作りを楽しみながら生きたという。 

3章終了です。

カラーセラピーのやり方はいろいろあります。全て同じではありませんので、ご了承ください。

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