2.宿屋の娘が借金に弱すぎる。
あちこち寂れた宿屋のドアを開くと中から怒気を効かせた横暴な声が響いて来た。
「これで何度目だ? もう借金が50万ガルドに膨れ上がってんだよ!!」
「すみません、もう少し待っていただけませんか!? 必ずお金はお返ししますので!」
「……客か、まあいい明日までに耳を揃えて50万ガルド用意しとけよ?」
入店するとふくよかな体付きの黒いスーツと帽子を被った葉巻を口にしている男が宿屋の受付に誓約書らしき物を見せつけており、俺に気付くと舌打ちをし不服そうに帰って行く。
「何だ?」
「ほ……、ああすみませんお客様ですよね?」
「おう、部屋借りれるか?」
「はい、さっきは有難う御座いました。」
「別に俺は何もしてないけどな。」
「いいえ、こんなボロ屋ですし人があまり来なくて……それよりそちらの方を休ませるのですよね?」
「ああ、先程盗賊に襲われてな命に別状は無いが休ませたい。」
「では、部屋の鍵をどうぞ。」
「ん、代金は?」
「無料でいいですよ、さっきのお礼です。」
男が出て行くと受付のブロンズの髪が肩までかかる緑色の目をした女性は何故か代金を受け取らず部屋の鍵だけ渡し、俺は言葉に甘え部屋のベッドに姫様を寝かせる。
「けれで良いかな、このままじゃ風邪引くだろうし流石に何もせずに泊まるのもどうかと思うし姫様と一緒に宿屋も燃やすか。」
俺は懐から一枚のカードを取り出し天に掲げると眩い光を放ち不死鳥フェニックスを召喚すると一瞬にして部屋中が火の海に包まれ外からは悲鳴が上がる。
「きゃあああああああああ!? 家事よおおおおおおおお!!」
「だ、誰か水! 水うううううううう!!」
「全然消えねええええええええ!!」
きゃあきゃあわあわあと外が騒がしくなり、ドタドタと慌ただしい足音が聴こえると俺が借りた部屋のドアが勢いよく開けられ血相を変えた宿屋の娘が避難する様に叫ぶ。
「た、大変です! 火事です逃げてください!!」
「外が騒がしいけど何かあったのか?」
「見て分からないのですか! 宿屋が燃えてるのですよ!!」
「何だそんな事か、心配すんな俺がお礼も兼ねて燃やしただけだから。」
「え?」
炎に触れても熱くない事を説明し燃え尽きる頃には新品の宿屋に変わっている事を説明する。
その状況の中、外では先程のふくよかな男性【ウラデマチ・ギュージール】が陰から覗いておりニヤついていた。
(クククッ、この私が手を下すまでも無く宿屋が燃えてくれるとはな。 私も鬼ではない燃えきった宿屋の土地で25万ガルド、残りの25万ガルドは私の元で身体で支払ってもらうとしよう、あの容姿だ男共は一発5万ガルドでも支払うだろう。 本来であれば私が先にいただくところだが処女となれば始めは10万ガルドは取れそうだな今から楽しみだ。)
ウラデマチは不敵な笑みを浮かべ宿屋の娘に負わせた借金と言うなの弱みに付け込んで娼婦にする讃談を用いる準備をする為路地裏へと消えて行く。
その頃、火の海と化した宿屋では燃え盛る姫様の服が完全に修繕されており、俺は不死鳥フェニックスに盗賊に襲われていた兵士を蘇生させに飛んで行ってもらった。
「すっかり服も元通りだな、それにしても宿屋が燃えただけで慌て過ぎじゃないか?」
「いや慌てるよ普通!」
「ところでさっきの怪しい男は何者なんだ? 見た限り悪そうな奴だったけど(頭が)。」
「えと、その……この街を裏で牛耳っている組織のボスでウラデマチ・ギュージールて方です。」
「じゃあ悪い奴だな。」
「いえ、見た目は悪そうですが借金返済を待ってはくれていますし。」
「その借金てのは最初幾らだったんだ?」
「えと、5万ガルドです。」
「5万ガルド? 利子は一ヶ月どれくらいだ?」
「利子? 言ってはいませんでしたけど、もう10ヶ月にはなります。」
「幾らなんでも高すぎるな、流石にボッタクリもいいとこだ。 どうする、俺が殺して来てやろうか?」
「もしかして殺し屋さん!?」
「そんな訳無いだろ俺は唯のサイコパスだよ。 だってさ悪人は皆殺しにした方が世界が平和になるからね。」
宿屋の娘は俺の言っている事が理解出来ていないのか、目を丸くして情報の整理を頭で行う。
(え、何? 冗談よね? 本気で言っているの? でも宿屋に平気で誤解招く様な放火の仕方してるし何考えてるのか分からない。)
「そろそろ火が鎮火する頃だな、周り見てみな新築そのものだろ?」
「嘘でしょ!?」
火が鎮火するとあちこち壁に空いていた穴や腐りかけの床などが新築同様になり、全ての家具も買ったばかりかと思える程の手触りになっていた。
「さてと、どうせ明日になればさっきの奴がまた来るんだろ? 幾ら裏で街を牛耳っていたとしても犯罪は犯罪だからな、まあ説得はするけど相手が力に任せて来るなら俺も同じ土俵に立つけどな。」
「これは私の問題ですから、そこまでしなくても!」
「甘いよ俺は相手の目を見れば今まで何をしてきたか分かるし、これから何をしてくるか分かるからね。」
俺は宿屋の娘にウラデマチが何を考えているのか事細かく伝えると初めは信じられない様な表情をしていたが次第に今まで関わって来た者達が謎の失踪を遂げたり娼婦として働かされていた事に気付く。
「ま、ウラデマチに娼館で死ぬまで働かされたいのなら話は別だけどな。 俺は姫様が目を覚ましたら街を出て王都へ送り届けるだけさ。」
「その、勝てますか?」
「何にだ?」
「ウラデマチには誰も勝てない用心棒が居るからです。」
「用心棒ね、少しは楽しめるかな? そうだ忘れてた、君の名前聞いて無かったな。」
「み、ミネアです【ミネア・パース】と言います。」
「ミネアか、俺はグレー・カラーリングだ。」
翌日ウラデマチが用心棒を連れて宿屋に来る事を先読みしていた俺は部屋で朝まで寝る事にした。