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西の砦へ

 エルを抱えて城に戻った。

 そのバカでかい門を潜って中に入ろうとする直前。

 右の方角から空を切る音。


「姫様~」


 空には黒龍のアイが居た。


「あ、アイ」

「昨日はいろいろと有耶無耶になってしもうたが、泡壁の核に魔力をチャージしないといけないじゃろう? 今日はちゃんと護衛してやるからのう」

「それなんだけど、リュウヤが一緒についてきてくれたし、魔力も勇者並みにあるから、泡壁の核にアイ達よりも近づけるの」

「なな、なんと…」


 驚いたような声を上げながら高度を落とし、地面に着地したと同時に真っ黒な髪を腰まで垂らした幼子の姿に変化する。


「やはりお主は恐ろしいのう」


 そう言いながら、俺の目をその黄色の瞳で見つめてくる。


「…お主、何者なのじゃ?」


 と、鋭い眼光で俺に問う。


「俺は…ここからありえないくらい遠い所から来たんだ」


 異世界から来たヨ! とか言って信じてもらえる訳がない。ので誤魔化しておく。


「ありえないくらい遠い場所…? もしかして、海の向こうとかかのう?」

「海…あーうん、そんな感じかな? そこですごく強い人と戦ってたんだけど、ここに瞬間移動させられたんだよね」


 海どころか時空を超えて蹴り飛ばされて瞬間移動してきたが。


「なるほど…いや何、疑って申し訳ないのじゃ。如何せん、勇者すら退けるような人間が今まで名を馳せなかったのがおかしいと思っていたのじゃが…ワシも納得じゃ」

「リュウヤって海の向こうから来たの? 海の向こうって何があるの?」


 今度はエルが話に食いついてきた。


「えーっと、いろんな技術が凄い発達してるよ…」

「例えば?」

「いやー、えーっ…えー法律とか? …光源もあるな。あと凄い料理道具?」


 魔王城を見ていて感じたが、この世界は中世ヨーロッパくらいの文明レベルであるような気がする。

 室内の明かりで、偶によくわからない水晶が光を放っているものがあるが、それはごく少数で、だいたいは蝋燭が使われていたからだ。

 あとはキッチンとか? 圧力窯がねえ。


「…と言うか、アイはなんでわざわざ魔王城に戻って来たの?」


 と、エルがアイに問う。


「…そうじゃった! 泡壁の核の件もそうじゃったのじゃが、西の砦に勇者が…」

「っ…」

「勇者? 勇者ってそんな何人もいるものなのか?」


 勇者と言うからには、唯一無二で他とは一線を画す特別な存在なんじゃないかと思ってたんだけど…。


「いや、勇者と言う称号を持つのはあの勇者アルス一人だけじゃが、あやつの仲間も勇者の紋章をその身に宿しておるぞ」

「勇者の紋章?」

「神から与えられたとされる祝福、その身にそれが宿れば魔を滅する聖属性の魔法が使えるようになる…」


 エルが震えるような声でそう絞り出す。


「それに、強さだけならまだしも、あやつらの最も面倒くさい所は死んでも生き返ることが出来ると言うことじゃ…」

「え、じゃあ勇者アルスってこの前首ちょん切られたけど…」

「ああ。おそらくあやつらの拠点で息を吹き返しておるじゃろう」


 あの時急に首を斬られていて、犯罪者だとはいえ流石に死んじゃうのはかわいそうだと思っていたが、死んでいなかったのなら一安心。


「それに、恐らくじゃが…今までとは違って勇者は他の仲間も連れてきている可能性が高いのじゃ。何せ、我らには強力な味方ができたからのう」


 と言いながら、アイはコチラを見てくる。


「…俺か?」

「お主以外に誰がおるのじゃ?」

「そうだったな…」


 そんな会話をしていると、エルがこちらを上目遣いで見てくる。


「西の砦は、人間の国から一番近い、私達の重要な防衛拠点なの。勇者の紋章を持った人間が全員で責めてきたら守り切れない…お願い、助けて」


 そんな揺れる深紅の瞳で見れらてしまったら。


「断る訳ないじゃないか。それに、この前の性犯…勇者アルスだろ? 大丈夫大丈夫、すぐけちょんけちょんにして帰ってくるさ」

「…! うん!」


 ぱあっ! っと顔を輝かせるエル。


「よーし、それじゃあ早速西の砦に向かうぞ!」


 と意気込んだは良いものの、西の砦ってどこだ?


「…」


 ゆっくり二人の方を見ると、ジト目でこちらを見ていた。

 なんだよ。恥ずかしいじゃないか。







「結局ワシが連れて行くことになるのか…」

「いや~申し訳ない」

「別にいいのじゃが…多分お主の足じゃったら走った方が速いじゃろう。次からは自分で走ってくれなのじゃ」

「俺の足そんな速いかなあ…?」


 ドラゴンになったアイの背中に乗って空を駆ける。

 初めて空を飛んだが、壮大な自然が一望出来てとても楽しいなこれは。

 うねる川、生い茂る木々。どこまでも広がる平野に聳え立つ山。


「あーそうじゃ。ワシは西の砦にお主を送り届けた後は自分の持ち場に帰るからの」

「?」

「えっと…西の砦を任されてるのはワシじゃなくてクレアじゃ。ワシは北じゃぞ。ちなみに東はキュウガ、南はライアじゃぞ。基本的に泡壁の核が張っている防壁を超えるのは至難の業じゃが、万が一に備えてな」


 へ~。四天王って大変そうな仕事だなあ。


「特にワシなんか、移動だけは他の四天王より早いし、西と北の砦は近いから、よくクレアの使いっぱしりにされるのじゃ…」


 ああ…可哀そう…。




 

 背中に乗って数時間。


「お、見えてきたぞい」


 そう言われて、前を見ると、巨大な山の中腹に立派な砦が立っていた。

 透明な膜も更にその向こうに見える。あれが泡壁の核の作るバリアか。

 そこから見えるのは…何百人かの軍隊かな? と、あ! 勇者アルス! 生き返るって話はウソじゃなかったみたい。


「よし、じゃあ降ろしてくれ」

「うむ」


 高度を下げるようにアイにお願いする…。

 と、アイは砦の上まで移動してからグルリと回転した。

 旋回ではなく、縦に回転。

 足場が無くなった俺は落下していく。


「違うううううううううううううう」

「ええ!? お主なら大丈夫じゃから! 多分! ワシはもう戻るからの!」


 ウッソだろ…。



 そのまま砦の横になんとか着地出来た。

 意外と何とかなるもんだな…。


「あ、貴方…」


 騒ぎを聞きつけたのか、やってきたクレアがその青色の瞳でこちらを見ていた。

 それこそ何をやっているんだ…と言いたいかのように。


「えっと…助太刀に来たよ…」

「そう…」


 ボソっとそれだけ言うと、クレアは砦の方へと姿を消してしまった。

 結構塩対応っすね~。

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