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泡壁の核

 さて次の日。自分では分からなかったが体はかなりの疲労を溜め込んでいたみたいで、ご飯を食べた後はお風呂に入ったりもせず即寝してしまった。

 朝がありえないくらい弱い俺は目を覚ます…覚ませない。

 目が開かないから仕方ないだろう。なんとか数分に渡り、ベッドから起き上がろうとする。

 ようやく、体感にして十分が経過したころ、ベッドの外に脱出することが出来た。


 昨日のうちに作り置きしておいた朝食を手早く取る。

 こっちに来る前も、妹の朝食を作らなくてはいけなかったが、朝起きるのは本当に無理なので朝食を事前に作っておくという手法をずっと取っていた。自分でもこれってもしかして俺は天才なのでは? と勘違いしてしまうレベルの画期的なアイデアだった。


「おはよう」

「あ、おはよう」


 食堂でご飯を食べていると、エルが入って来た。


「今すぐにでも泡壁の核に行きたいんだけど、今日は大丈夫?」

「勿論」


 俺に用事なんてないからな…。




 二人で森の中を進む。

 そういえば…。


「泡壁の核って魔王の親族以外入れないんでしょ?」

「? リュウヤくらいの魔力を持っていれば、そんなの大したことない」

「ああ」


 実は魔力と言うのがよくわかってないから、自分の魔力が多いかどうかとかよく分かんないんだよな…。


「…待って」


 急に先行していたエルが止まるから、つっかかって転びそうになる。


「っとっと…どうした?」

「…あそこ」


 彼女の赤色の瞳が示す方向に俺も目を向ける。

 かなり遠くの方。木々の隙間から、開けた平原が見える。

 その平原の半分を支配するかのような巨体。

 そこには、九つの首を持つ竜のような生き物が居た。

 まるでヤマタノオロチだ! と思ったけどヤマタノオロチは頭が八つだった…。


「あれはここ、ハイドラ。今は寝ているみたいだけど…泡壁の核に行くにはあそこの近くを通らないといけない」

「マジか…てかあいつでかいな」

「うん。でも、流石に泡壁の核に近づける程の力はないけど…ハイドラは炎を吐くから、ここで戦闘になるとちょっと厄介」

「なるほど」


 そりゃ森を燃やされるのはだるいな。


「私が隠遁の魔法を使うから、それで音を立てないように移動する」


 と言うなり、エルの体から不思議なオーラを感じる。

 次の瞬間、それが自分の周りに纏わりついたような感覚に陥った。


「…うん。大丈夫」

「ありがとう」

「じゃあ行くよ。絶対に音を立てないでね? ハイドラの聴覚はとっても発達してるの」


 なんて話をしながら、思いっきりエルは道に落ちていた枝をバキィ! と踏み抜く。


「…」

「…」


 漫画かってくらいキレイに踏み抜くな。


「グルウオオオオオオオオオオ!!!」


 エルの話の通り、小さな音でも…さっきのは小さい音じゃなかったわ。


「ど、どうしよう…いつもは四天王の誰かが追い払ってくれるんだけど…」

「おいおい、俺が誰か忘れたのか?」

「リ、リュウヤ…」


 熱を帯びた視線を送ってくるエル。


「魔王軍参謀の初仕事、一瞬で終わらせるよ」


 今の言い回しちょっとかっこよかったかも。

 あんなに巨大なモンスターと戦うのは初めてだけど…。


「まあ俺なら大丈夫だろ」


 今の俺には勇者や四天王を撃破できる最高の相棒、毒魔法(ポイズンマジック)があるからな。






「グルアアアアアアア!」


 ハイドラは自分に向かって走っていく俺の存在を認識したらしく、その九つの首から同時に炎を吐いてきた。


「そっちが炎なら俺は毒で」


 体中から発射される毒液の濁流。

 それらは一瞬で炎を全て打ち消した。


「グラアアアアアアアア!」


 自分の炎が効かなかったのが堪えたのか、今度はその顎で俺を噛み砕かんと、首を伸ばし俺に襲い掛かる。

 それを右に左に踊るように回避、蹴りを入れつつ神経毒をぶっかける。

 

 流石の巨体。毒が一瞬で回るわけもなく。しかしながら、ハイドラの動きは明らかに鈍くなった。

 もう動けなくなるのも時間の問題だろう。それに、ハイドラは強さの格の違いを理解したのか、へなへなと這うようにこっそりとその場を後にしようとしていた。そんなにでかいんだからバレるでしょ。

 とどめを刺すべきか迷い、遠くにいるエルの方を振り返り見る。

 すると、首は横に振られた。ダメらしい。理由は知らないが、上司が言うのなら。






「す、すごいね。四天王でももう少し手間取るのに…」

「まあ…うん」


 毒魔法(ポイズンマジック)が強いだけかな~……。


「そういえば、どうしてとどめは刺しちゃダメだったの?」


 森を焼く恐れのある公害生物は駆除した方が…。


「ハイドラは生物には有害な強力な毒を持ってるんだけど、それがこの森の植物には栄養剤になるの」


 へえ、ハイドラって炎以外にも毒を撒けるんだ。

 なんで俺の毒効いた?

 毒を持ってる生物って、他の毒にも強そうなイメージなんだけど…。

 やっぱり毒魔法(ポイズンマジック)が規格外なのかな…。


「というか、毒が栄養剤になる植物って…」


 周りに見えるのはホントに至って普通の木々である。


「この木も強い毒性があるの」


 Wow…。実は昨日お腹すき過ぎて木でも齧って飢えを凌ごうと一瞬思いついたんだが、実行に移さなくて本当によかった。






 更に歩いていると、急に周りの雰囲気が変わったような気がした。

 それに、かなり遠くの方に、一軒の家。


「あそこの家の中に泡壁の核があるの」

「おお」

「こんなに早く着けたのは初めて。多分、森の魔物が皆、ハイドラを退けたリュウヤの強さを恐れて近寄ってこなくなったから」

「そうなんだ…」


 昨日は凄い襲われたけどなあ。ハイドラ倒すってそんなに名誉なコトなのか。



 家に入ると、そこには青い水晶のような物体が浮かんでいた。


「ここに魔力を籠めるの」


 と、言った傍から、さっき隠遁の魔法を使った時のように、エルから不思議なオーラが漏れ出し、それがどんどん水晶に吸われていった。

 数十秒後、エルから溢れるオーラが消え、


「もう限界…」


 と言いながら、エルがその場にへたり込んだ。


「お疲れ様」


 労いの言葉をかけると、


「疲れちゃったから、おんぶして」


 と言ってのけるエル。

 しょうがない魔王様だな、と感じつつも、どこか妹のような彼女の頼みを断ることが出来ず、彼女をおぶったまま、俺達は泡壁の核を後にした。

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