帰還
「「「参謀様ばんざーい!」」」
「い、いえーい…」
その後、オルフェウル王国軍が全員撤退したのを見届けてから、何故か宴会が始まった。
「参謀様、人間なのにやりますね! 一人で相手を全員返しちゃいましたもんね!」
「お酒飲みませんか?」
「いやー、あんなに大規模な魔法を使われて焦りに焦りましたよ! 遺書もこんなに書いたんです」
いろんな魔族や、頭に獣の耳を生やした、獣人という種族の人も俺に話しかけてくる。
てか遺書長すぎ。絶対焦りに焦ってたとかウソでしょ…。字が凄いキレイなんですよ。
事の発端は、王国の侵略も一通り片が付いたっぽいので、さっきのスープを試食して帰る為に食堂に寄ったのが運の尽き。
あっという間に何人かの魔族に絡まれていつの間にか凄い規模になっちゃっていた。
なんとか人の海から抜け出して、食堂の隅っこに避難する。
「…なんの騒ぎかと思ったら」
「あ、クレア」
そこにはジト目で会場を見渡すクレアが居た。
騒ぎを聞きつけてやってきたみたい。
「…まさか貴方の仕業とは――」
「違うよ? 俺じゃないよ?」
原因は俺かもしれないけど。
「…そう」
と、小さく呟いた後。
くるりと向きを変え、クレアは食堂を後にしようとする。
食堂に居たら更に絡まれそうで、もう料理の奪取は不可能だと悟った俺は、なんとなくクレアの方に着いていく。
砦特有の無機質な廊下を歩いていると、
「貴方は凄いね。私なんかよりも力があって、もういろんな人に認められてる」
なんて言ってきた。
「…どうしたらいいの? 私は、もっと強くならないと」
と、切実に。俯きながら言う。
「…迷いを捨てるにはどうすればいいのか。俺はよく考える」
強くなる方法なんて言われても、俺はいきなり毒魔法を与えられて、身体能力も突如として上昇しただけだから、どうしたらいいのかなんて教えることはできない。
だから。
「その最も手っ取り早い方法が、自分を設定するってことだ」
「自分を…?」
「自分を構築する、これだけは守らないといけないってルールを見つけるんだ。例えば…誰にでも優しくするとか。それを以てして自分を認めてあげる」
自分もルールは設けてある。
拒絶されない限り誰にでも寄り添う事。助けた相手に見返りを求めるのではなく、自分でそれを見出す事。あとこっちの世界に来てからだけど、誰も殺さない事。生き返るとはいえ勇者の仲間一人殺しちゃったからこれは非常に怪しいのだが。
一部怪しい所もあるが、これを守ることで、リュウヤという人物、人格はここに存在している。
「ルール…」
「…別にルールがなくたって、自分の事を好きになれればなんでもいいんだけどな」
大事なのは自信を持って自己を確立すること。
父親に教えられた言葉であるが、未だに自分ですらそれが出来ているかは不明。
「ただ、自分の役職とか、他人と相対的に付与される付加価値は自分を構成する要素に入れちゃ駄目だ。俺で言うと魔王軍の参謀とか」
例えばの話だが、俺が自分が参謀であることを誇りに、自分を構成する唯一のアイデンティティだとして、俺より頭良くて強い人が来たら俺は参謀ではなくなる。
すると自己は崩壊である。
逆に、「自分は参謀になれるくらい頭がいい」っていうのを事故を構成する要素に入れるなら別に大丈夫だ。俺はそんな頭良くないから入れられないけどね!
「細かいことをぐちゃぐちゃと語っちゃったけど、そこはあんまり大事じゃなくて、結局は自分を認めて好きになれて、自分がブレなければそれでいいんだ。…強くなる方法じゃなくて心構えの話になっちゃって悪いな」
「…そんなことない。…少し、楽になった」
「それならよかった」
さっきよりも少しだけ、表情が柔らかくなったのを見て安心した。
自室に戻ると言ったクレアと別れ、ほとぼりも冷めたことだろうと、恐る恐る食堂に戻ってみれば、ほとんどの人が酔いつぶれていて助かった。
辛うじて残っていたスープに手を付けつつ、そういえば俺って緊急でここ来たけどもう帰っていいのかな…と考える。
そうと決まればここの最高責任者に聞こう! 最高責任者って四天王のクレアじゃない? さっき聞けばよかった…。
一度別れた後すぐにもう一度会うのはなんか気まずいなあ、と思いつつ彼女の自室へと向かう…所で運のいいことに彼女に出会うことが出来た。
「あ、クレア」
「どうしたの?」
「いや、帰っていいのかなって…」
「そうね…王国の軍も戻ってくる気配もないし、良いんじゃないかしら」
「そうか、サンキュー」
それだけ聞ければ充分だ、手早く帰り支度を整え…って特に何にも持ってきてないからいいのか。
って言うか、俺が飛行魔法覚えなかったら帰る手段なかったんじゃね?
来るときアイの背中に乗せてもらったし。
まあ暗くなる前に帰りますか…。
外を見ると既に日は暮れかけており、オレンジの夕日がこちらを見てくる。
急がないと帰れないかも。
なんて考えながら、砦から飛び立ち、太陽が落ちる方向と反対の方へと飛んで行った。