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友人

吾輩は独り暗闇の廃墟の街並みを歩く。空から月が照らし猫の吾輩には十分な視界が保たれている。ところどころで真人族の男達が廃墟の中に思い思いに巣を作っていて、カーラの3時間で消えるという忠告を無視した少数は暗闇の中で仕方なしに路上に寝そべっていた。それを横目に吾輩は城郭都市の大きな門へと向かう。

目の前へ行くと聖都の南門は本当に大きかった。高さは人が2人分以上ある。過去は馬車に積まれた荷物をそのまま通していたのであろう。辺りには誰もいない。壁の上にも灯りは見えないので夜通し見張りを立てているだろう自分達とは違い聖都を囲う城郭と結界への絶対的自信が窺える。中の様子が見えないかと隙間に目を近づけるがぴっちり閉じた扉は髭一つとて通さない。吾輩は仕方ないと諦めて尻尾をくるりと反転し吾輩達が守るべき街の門を目指した。誰かしら見張りをしているだろうから無人のここよりはましと思ったのだ。


踏みしめる大地に当たる肉球がひんやりと夜の冷たさを教えてくれる。街の周りが赤い丸裸の大地の為か寒暖差が激しい。だが、吾輩の深い体毛はそんなことを微塵も感じさせることなくすごし易いぐらいだ。問題は昼間だな。今の季節が分からず四季があるのかも分からないが熱くなるならば吾輩の毛皮は非常にまずい。呪いで脱げない毛皮のコートと言ってもいいだろう。ゲームの世界で熱中症で死亡なんて嫌だしダサすぎる。しかし、今はそんなことを考えてもどうしようもない。ため息をつくとうっすらと白く消えていった。肌寒い夜に独り。怖いと思う人もいるだろうが誰の視線もないそんな時間が俺は好きだった。


特に見るところもない廃墟を通り抜けると今日の昼間と同じ低い壁が姿を現す。壁の上に座る二つの影が月に照らされていた。

ニャ。塀のような壁をひょいッと上がりこんばんはと吾輩は挨拶をする。

「おう、お前は確かインポ野郎。」

「イヴァンさん、それ裏での悪口ですよ。」

「すまんすまん。えー。あっ、そうそうダメ男だ。」

「それは族長がつけた彼のあだ名です。シロさんですよ。」

「うん、確かそんなやつだった。イヴァンだ。」

「ミゲルです。よろしくお願いします。」

ニャー。よろしく。なんかいらんことを聞かされた気がする。

イヴァンはシベリアンハスキーの頭をした大男だ。ミゲルはほとんど真人族と変わらない見た目をしている。三本髭を生やした少年と知った感じだ。

「あ、そいうえばシロさんの回復魔法助かりました。いや、ほら僕って牙も爪もないでしょ。それでいて武器もないのに族長の掛け声に付いて行かざるを得なくってネズミに齧られ放題で、もう。」

ミゲルは両手を挙げて降参といった仕草をした。

「むふっ、お前ら俺が羨ましいだろ。ふんぬぅ。」

イヴァンは腕を鳥のように広げて背中の筋肉を吾輩達に見せつける。まんまハスキー犬の形をした頭の印象で全身が獣かと思ったら上半身は人の肌を晒していた。しかし、浮かび上がる筋肉は常人のそれでなくボディービルダーのような筋肉が月に模《かたど》られていた。

ナァーナ。はいはい、羨ましいですよ。ああああ、こいつうぜぇ。俺もこんな感じになるはずだったのに。

「いいんです。僕は犬好きなんで、チワワでもいんです。」

ミゲル、お前チワワだったのか。

「まっ、つっても俺も一族のなかじゃ中の上ぐらいだけどな。」

「獣人族がステータスにバラつきが出ることは了承済みでしたがこうもあるとですね。族長の強さは何なんでしょ。」

「こいつの強さを吸ったんじゃね?出がらしみたいなもんだろ。」

「失礼ですよ。ベンガル猫、山猫を掛け合わされた人工種がベースといっても彼女の強さは異常ですよ。シロさんは、メインクーンかサイベリアンですかね?」

ニャー。吾輩もそう思う。

「そうそう、シロ。お前、馬の獣人見たか?」

吾輩は首を振る。

「あいつな、ケンタウロスになりたかったらしんだけどさ、馬面のただの人間で面白いのなんのって。」

「あなた本人の前でゲラゲラ笑って後ろ蹴りされてたじゃないですか。」

「筋肉で防いだけどな!」

今度は腹に力を入れて腹筋を自慢してきた。

バキッ、ボキッ、ボキキキィ。

三人は一斉に壁の外へと目を向ける。地面の方で何かが蠢ていた。

「あれがウェルダさんの言っていたトレントですかね?」

「モンスター化するって話だったか?それにしても気味が悪い。」

あの辺りはネズミの死骸が多く転がっていたはず。食べているのか?

「なんか、気分がのらなくなってきたな。」

「真面目な話でもします?」

「シロ。お前、今どの陣営にいるんだ?」

ナー。吾輩にも分からない。

「ウェルダさん、妖精族の目的が分からないですね。そもそもエルフなんて種族選択にありました?」

「ドワーフはあったけどな。女しかなれないとかか?」

「それにあのシスターさん、彼女は魔女ですよね。」

「やばい奴みんな女だな。」

「男はみんなモブですねー。シロさんはヒロインですけど。」

「ちげーねぇ。」

イヴァンは吾輩に顔を近づけて小声で言う。

「おい、シロ。とりあえず、獣人族はサブ目標の聖都制圧はやらん。少なくとも族長が変わらない限りはな。」

吾輩は頷く。おそらくそれをやると真人族との対立は避けらえない。

獣人族は個々の戦力で上回るところもあるが人数では真人族の五分の一程度。対立は得策ではない。

「お前はこのまま何もせず潜伏しろ。とりあえずは俺の小隊に組み込むが最悪お前が裏切っても大丈夫な距離感でいく。昼間は話しかけるなよ。」

ニャ。了解。

「それでは、そろそろ僕たちも交代の時間ですので。」

吾輩は尻尾で手を振りその場を去る。久しぶりの男達との会話は面白かった。


寝床の聖堂の入り口を跨ぎ中に入るとと正面の壇上が月の光に照らされ厳粛な雰囲気に包まれていた。

思えばカーラに授けられたペンダントに助けてもらってばかりいる。なんだったかな・・・。

『女神ツクヨミの御心のままに。』

吾輩は香箱座りをして姿勢を正すとそう祈りを捧げた。


女達は壁にもたれかかったり床に寝そべったりお互いに寄りかかり合ったりと聖堂の床を雑多に埋めている。

元の位置が分からないので吾輩は仕方なく鼻を使って知っている人のところへと行くことにした。

ヒナの場所は本当に分からない。マリリンの臭いがした気がするが、気のせいだろう。

吾輩は新緑のさわやかさにわずかに香る甘い香りをすぐに嗅ぎ分け音もなく女たちの間を縫うように進む。

ウェルダはエミーの隣で壁に背を預け眠っていた。皆遠慮したのか彼女の横には一人分ぐらいの空きがあり吾輩はそこに身を丸めて背中で彼女の体温を感じる。

ミゲルはウェルダの目的が分からないと言っていた。彼女が吾輩に良くしてくれるのは何か目的があってのことかもしれない。でも、吾輩にはそんなの何だっていい。彼女の為であるならば吾輩は何だってしよう。

吾輩は小さく喉を鳴らし意識を手放すまでそうしていた。彼女の安眠が続けばと。

いざ書いてみると自分の才能の無さに打ちのめされます。

一章分ぐらいは書き溜めていたのですが数話投稿して挫折してました。

この間、お一人ですが評価とブックマークをしていただくことができました。

私好みの世界感を気に入っていただけたのならば励みになりますので評価の方をしていただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

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