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あり得ない日差し

 激しい警告音がこの迷宮全体に鳴り響いたかと思うと、壁も天井も全て揺れ始め、次に俺たちの体は地面に押しつけられるような不気味な感覚に襲われた。


 前世でエレベーターに乗って上の階に上がる時に近いもので、この世界にも魔法による似たような装置は存在するが、フロア全体が、というのはあり得ない。

 そう、あり得ないと思っていた。


 時間にして数十秒だろうか。

 ようやく警告音も振動も、あの押しつけられるような嫌な感触も消え去ったのだが、ユア、アイナの動揺は治まらず、俺にしがみついたままだ。

 いや、下手をすれば迷宮全体が崩れ落ちかねないという恐怖に、俺もプチパニックに陥っていたのだが、そこは頼られているという責任感でなんとか耐えてみせた。


 また、この事態は迷宮に巣くう魔物達にとっても初めての経験だったようで、群れを成して襲いかかってこようとしていたライグ・ジャッカルたちも、どこかへ逃げてしまっていた。


「パパ……これって何が起こったの?」


 青くなったユアが、俺に抱きついたままそう口にした。


「いや……俺にも分からない……ちょっと見た限りはそれほど大きな変化は起きていないようにも見えるが……」


 さっきの振動で、多少ホコリが舞い上がり、小さな砂粒がパラパラと天井から落ちてきた程度でしかなかったのだが、嫌な予感は消えない。


「でも、でも……なにか変ですぅー。さっきから、耳がちょっとおかしいですよぉー……」


 アイナも相当怯えて、彼女の右腕で俺の左腕をしっかりとホールドしている。

 たしかに、耳の異常は俺も感じていた。

 彼女たちの声が少し聞きづらく、そして鼓膜が押されたような違和感がある。


 前世にて、車で山を登ったときのような、気圧の変化に伴う耳の異常に思われた。

 だとすれば、ひょっとしたら出入り口近くで落盤事故でも起きて、迷宮全体の空気が圧縮されたのではないだろうか?

 そんな思いが頭をよぎり、また少し怖くなった。


「……とりあえず、この迷宮からはさっさと脱出した方がよさそうだな……二人とも、ケガとかはないか?」


「あ、うん、ちょっとビックリしただけで、どこもなんともないよ」


「私も、平気ですぅー!」


 二人とも、思ったよりも元気になっていた。

 ここで俺が弱気になっていたら二人とも不安になるだろうから、俺は明るく笑って勇気づける。


 しかし、何十年も変化のなかったこのクラローズ地下迷宮で、これほどの異常事態が起こるとは考えもしていなかった。

 今いる地点は地下十二階で、星を持たないユアとアイナには少々ハードルが高い地点ではあるのだが、三ツ星ランクの俺が付いていれば危険なことはほとんどない。

 なので、ここから地上に向かって登っていくだけなら大して恐れることはない、焦らず確実に階層を上がっていけば良いだけだと思っていた。


 そして上層に登るための階段のある地点を目指し、この層の最外周部分にたどり着いたときに異変を感じた。


「あれ……なにか、光が漏れてるよ?」


 ユアが不思議そうに指摘した。


「ああ……なんだ、あれ……やけに明るいな……まるで日差しが入ってきているような……」


 そこは、壁面に約十センチ四方のごく小さな額縁のような飾りがあった地点だったが、どうも様子が変で、まるで日光を取り込むための窓のように見えてしまう。


「……なんでしょうかぁ……まぶしい……まさか、本当に窓だったりしませんよね?」 


 アイナが、また怯えたようにそう言葉にした。

 嫌な予感がして、その場所へと駆け寄る。


 窓、のようなものは、床から1メートル程の高さに設置されていた。

 そこから差し込む光が、斜め下の石造りの壁面を明るく照らしている。

 恐る恐る、その四角い枠をのぞき込んで、背筋に冷たいものが走った。

 広大な荒野と、そして数キロ先の街が、小さく、遙か眼下に見えていたのだ。


「バカな……こんなことがあるはずがない!」


 ユア、アイナが側にいるというのに、俺は狼狽して大声を出してしまった。

 それに反応して、その二人が俺に変わって枠をのぞき込み、そして絶句した。


 ――俺たちが地下十二階だと思っていた現在のフロアは、地上数十階に及ぶ巨大な塔の上層部へと変化してしまっていた――。


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