世界危機らしいよ
さて、勢いとノリだけで書いたこの小説。いつまで続くんだろうか。
光が収まると、そこは大理石で出来た豪華な部屋の一室。ラノベ的に考えると大方異世界の何処かの国の王城とかだろうが。
先程の語り出しからここまで素早い展開である。些か急ぎ足過ぎないか?
周りには他の生徒達も居て、辺りを見回している。大多数が困惑し、状況を整理できずにいるが、一部の人は察していた。そりゃ、最近そういう作品多いもんな。うち何人かはニヤニヤしている。お前ら自分が主人公だと思ってんだろ。
残念だったな。主人公ってのは、龍夜か……最近の傾向で行くと遙稀だ。
そして、当のお2人は全く違う反応をしている。
「みんな落ち着け!とりあえず状況を整理しないと!」
と、生徒のフォローに回っているのは龍夜。流石はハイスペックイケメン。ちなみに、本来フォローに回るべき我らが愛ちゃん先生はオロオロしている。
なんで生徒より教師が取り乱してるんだ。
そして遙稀は、状況を察し考え込んでいる。ニヤニヤもしていないので、妄想しているわけでは無さそうだ。何を考え込んでるのだろうか。
素直に聞いてみる。
「なあ、やっぱ異世界転移してるぜこれ。それで?何考え込んでんだ」
「いや……考え過ぎなら良いんだけど。もしかしたら此方に善意的な召喚者じゃないかもしれないと思って」
なるほど!それは盲点だった。確かに、善良な召喚者じゃないかもしれないのに、思い込みだけで善良だと判断してた。
やっぱこいつモブじゃねぇ、主人公だろ。モブはそんなこと考えない。
状況に慣れたのか徐々にざわめきが収まりつつある時、目の前の巨大な扉が開いた。そして、ぞろぞろと人が入ってくる。
兵士が大勢と、豪華な服に身を包んだ者たちが七人程ほど居た。
いきなり現れた彼等に、生徒達はまたもやざわめき始める。なにより、兵士達の武装が威圧的でそのざわめきには怯えの感情が垣間見得る。それを龍夜が手で制すると、警戒した表情で相手方に語りかけた。
「どちら様でしょうか」
その問いに答えたのは一際豪華な服に身を包んだおじ様─────ではなく、その隣の老人だった。恐らくは宰相かなんかだろう。
「おお、我らが勇者様方。遂に女神様が応えてくださったか!」
やっぱり勇者召喚か!これはラノベ的展開が期待出来るぞ!さて、展開はやはり龍夜が主人公の王道系か、遙稀が主人公の最近のラノベ系か。
俺が脳内論争に夢中になっている間にも、話は進んでいく。
「とにかく、ここでは何かと話すには不便でしょう。場所を移させてください」
宰相らしき爺さんはそう言うと全員踵を返し扉から出ていく。
いや場所移すなら王様みたいな人達連れてくる必要無いだろ。来たなら少しくらい話せよ。
俺達は、困惑するが兵士達の様子を見るに、ついて行かないと行けなさそうだったので、ついて行く。
案内されたのは、巨大な食堂だった。まあ、クラス異世界転移系で定番の説明回の場所である。
席は50席程あり、テーブルには豪勢な食事が並んでいた。まだ作って間もなさそうだったので、恐らく俺達が来るのは予見されていたか。2ーB組は36名、プラス教師一名で37名。これに偉そうなお方7人を含めると44人。6席余る事になる。ここから考えるに、大体の数は把握していたが何人来るかは予想できなかったというところか。
全員が促されるままに席に着くと、宰相らしき爺さんが語り始めた。
関係ないけどこの椅子ふわふわで心地良いな。
「勇者様方。よくぞ我等の願いに応えてくださりました。感謝申し上げまする。ワシはこの国の宰相セルバス・エルディエトと申す。以後お見知りおきを。早速本題に入らせて頂くが、あなた方には、魔王を討伐して頂きたい」
やはり王道展開だった。そして説明も大体想像していた通り。
この世界は異世界アルカディシスというらしい。剣と魔法の世界で、まさに異世界だ。さらに、ここはファルシア王国という。王様はやはり一番高そうな椅子に座るあのおじ様だった。名前はアレイス・リ・ファルシア。
やけにダンディーだったのは王様だからなのねん。関係ないか。
そして、俺達を召喚したのは女神アルテア。この世界で最も信仰されている女神らしい。この国は長く続く繁栄国で過去何回か召喚された勇者を迎え入れた事があるらしく、そのため先程の召喚者を迎え入れる部屋《召喚殿》があるそうだ。俺達が大体何人来るか分かったのも、この女神とやらのお告げらしい。
さてここからが本題だ。何故俺達が召喚されたのかというと。やっぱり王道で魔王を倒す為だった。
魔王とは魔族と呼ばれる、魔眼と魔角と呼ばれる魔力を宿す器官を持つ少数種族の王なのだそうだ。魔王国と呼ばれる渓谷の向こうにある国に住む、数は少ないながらも強力な力をもつ彼等は、魔神バルディスを信仰し、魔神がこの世に顕現すると毎回魔神の為に人間の国々へと侵攻しているらしい。
そして、その侵攻に今回も耐えきれなくなってきた人間達を救うべく、女神が俺達を遣わしたのだという。
余談だが、この国が召喚者を迎え入れる事が多いのは、魔王国から一番遠い国で準備を整えやすいかららしい。
さて、余りにも王道すぎる話だったが。話が重いせいで、食事はあまり減っていない。勿体ない。俺はガツガツ食ったぞ。
「勇者様方、どうか……どうか、我らを助けてくださいませんか」
話を終え頭を下げる宰相セルバス。そして、王様、並びにその家族らしき者達も頭を下げた。
「余は立場上、あまり頭を下げてはならぬのだが、こればかりは下げなければならん程重大な事なのだ。頼む勇者方よ、我らを、この世界を救ってはくれぬか」
いきなりお偉方達に頭を下げられ、萎縮する俺達の中で、龍夜が立ち上がった。
「俺達も力になれるのならそうしてやりたいです。でも、俺達はあっちの世界では一般人なんです。申し訳ないんですが、元の世界に返していただけませんか?」
本当に申し訳無さそうにいう龍夜。力があれば本当に助けに出そうなくらい真剣だった。よ、それでこそヒーローだ。
しかし、その願いに対して宰相は申し訳無さそうに言った。
「こちらこそそうしてやりたいところですが、実はそれは不可能なのです。召喚したのは女神様なので我々は元の世界へ返す方法が分からないので……。ただ、言い伝えによると、今迄の勇者様達は魔王を倒した後、元の世界へと女神様が送り返してくれるそうです。それに、あなた方は力があると思いますよ。そうでないと、女神様は召喚などしませんから」
つまりは、拒否権等最初から無かったのだ。とんだブラック企業である。遙稀を見ると彼も胡散臭いものを見るような目で宰相を見ていた。
そして龍夜はというと、暫く考え込んでいたが、顔を上げて言った。
「分かりました。魔王討伐、引き受けましょう。そうしないと元の世界には帰れなさそうですし。……なにより、俺、この世界のことを救ってやりたいですから。みんなも、それでいいかい?」
そう言って爽やかに笑う龍夜。まさにヒーロー、主人公である。
それに呼応するように、やれやれと言った雰囲気で狼牙、怜、花咲さんが立ち上がった。
「仕方ねぇな。だが、それでこそ俺の親友だぜ。俺も手伝ってやるよ」
「龍夜は一度言ったら聞かないからな。だが、私も同じ気持ちだよ」
「れ、怜ちゃんが頑張るなら私も頑張るよ!」
おお、持つべきは友情か。後ろで感動的なBGMが流れていそうだ。
そして、クラスの中心人物が全員魔王討伐に賛同したおかげで、みんなやる気になっている。愛ちゃん先生は未だに状況に混乱していて整理出来ていないようだ。教師だろしっかりしろよ。
「おっしゃ、魔王なんかぶっ倒してやるぜ」
「無双だ無双!」
「早く帰るためにも!」
「あ、あそこのメイドさんタイプ」
一人なんか違うけど。
そんな俺達を見て、王様達は満足気に微笑んだ。
「感謝する」
「いえいえ、困っている人を助けるのは当然の事です」
そう言って爽やかに笑う龍夜。
「では早速だが、自らの職業とスキルを把握して欲しい。急で申し訳ないのだが、セルバスについて行って貰えないか」
本当に急だな!ただまあ、最初の展開でグズっても視聴者は飽きてしまうだろう。
この作品、リアルだけど。……視聴者なんて居ないけど。
それに、引き受けた手前断る事も出来ない。仕方が無いので、全員で職業やらスキルとか言う異世界要素を見に行くとする。
ちなみに、食卓の食事を名残惜しそうに見つめるデブが何人か居た。
残念だったな、さっきの話の間に食べれば良かったのに。俺は食ったぞ。