次の街へ向かった。
何者だと警戒するが、彼を見たクラウディアは予想外の驚き方をした。
「お父様!? 怪我は大丈夫なのですか!?」
なるほど、この筋肉隆々の包帯男が、クラウディアの父親のペクトさんか。
ペクトさんはタイガーに語りかけた。
「タイガーさん、あなたの部下を守りたいと思う気持ち、私は感服しました! あなたの部下達は、私達の町で責任をもって面倒を見させていただきます」
「あんたはこの町の町長だったな。そうしてもらえればこちらとしても望むところだが、本当にいいのか?」
ペクトさんの言葉にタイガーは半信半疑だったが、彼以上に疑の感情を強く持った者達が声を上げる。
「そうですよペクト様! 今のが全部演技かもしれないですよ。山賊どもを信用して、この町でまた問題起こしたらどうするんですか?」
「そうだそうだ、いきなり攻めてきた山賊どもを信用できるか!」
コリンは難色を示し、集まってきた町人もそれに同意する。
ペクトさんは慌てずに反論する。
「こちらが信用すれば、相手もまた信用を返してくれる。それが人間というものです」
「そんな楽観的な……」
「いや、ペクトさんの言うとおりだと俺は思う」
思わず彼らに口を挟んでしまった。
◇◆
「あんたは……あんたには感謝してる。だがな、これはうちの町の問題なんだ。勝手にこいつらを許すなんて言わないでくれよ」
そう町人に釘を刺されるが、俺には一つ、どうしても言いたいことがあった。
「そうだ、俺には彼らを許す権利なんてない。だけど一つ、どうしても言いたいことがあるんだ。
彼らは運に恵まれなくて、山賊にまで身を落としてしまったんだ。「運」悪く失敗する、っていうのは、そんなに悪いことなのか? 俺には、同情の余地があるように見えるんだ」
「……何言ってるんだ。それが同情を誘うための嘘かもしれないじゃないか!」
「いいえ、彼らの姿勢、身体に纏った微かな土の魔力、そして何よりあの手の荒れ方。彼らが元々鉱山労働者だったのは間違いないでしょう。
フェイ様も、彼らの手を見れば分かるはずです」
クラウディアが、彼の言葉に反駁した。
フェイと呼ばれた町人は山賊達に近づき、そして気づく。
「……この手には覚えがある。父さんも同じ手をしていた。嘘じゃないようだな」
彼の語調はかなり柔らかいもので、この場の空気が少し和らぐ。
ペクトさんが、和らいだ空気を引き継いで言う。
「大丈夫です。もし彼らが道を違え、町人に危害を加えるようなことがあれば……私が責任をもって鉄拳制裁します!」
そう言うとペクトさんが土属性魔法を詠唱する。詠唱が終わると、彼のただでさえ屈強な筋肉がさらに一回り膨れ上がった。
「どうですか!?」
「お、おう。そうして貰えれば何よりだ」
あまりの筋肉っぷりに、タイガーは戸惑って返事をする。
山賊達も筋肉に震え上がっているし、これなら問題ないだろう。
「これで、めでたしめでたしですね!」
「そうだな、ペクトさん。平和的な解決に舵を切ってくれて、ありがとう」
俺とペクトさん、町人が笑みを交わすこの光景を見て、コリンが突っ込む。
「いや、ちょっと待ってよ! 本当に筋肉で何とかする気なの!?」
◇◆
その後タイガーは王都へ出頭し、山賊達は町に勾留された。
タイガーが出頭するのもペクトさんは止めようとしたそうだが、主犯格として自分の罪を償うといって聞かなかったそうだ。
勾留された他の山賊達は、犯罪者であるうちは労役として、程なくして下された恩赦の後からは生きるための労働として、町の中で仕事を始めた。
血の気が多い彼らは問題を起こすことがあったが、ペクトさんの鉄拳制裁の甲斐もあって町に溶け込んでいった。
なんでも、彼らの中で一番の働き者が、最近町娘と結婚したとか。
ペクトさんも、頑張っているみたいだな。
コリンは「理解できない……」と呟いてはいたが。
今俺達、俺とクラウディアとコリンは、フェンネア王国の北の果て、「森とクエストの街」ベネディアにたどり着いたところだ。
「着きましたね、テイラー様、コリン。ここなら恐らく、時の腕輪を作るために必要な素材が手に入るはずです」
「そうだな。長い道のりだったが、本番はこれからってわけだ」
「何でもいいから入りましょうよ! 久しぶりの町ですよ!」