山賊退治に名乗り出た。
しばらくして我に返った俺は、クラウディアに腕輪を返した。
「ありがとう。だが、俺がしたことといえば山賊を追い払っただけだ。魔法剣を使えるようになる効果があるような腕輪をもらうわけにはいかない」
しかしクラウディアは腕輪を受け取らずに話し始めた。
「いえ、この腕輪はテイラー様以外が持ってもあまり意味はないでしょう。
これは自分自身だけを重くしたり軽くしたりできるだけの腕輪です。魔法剣を使用できるような効果なんてありません。考えられえるとしたら、テイラー様の魔力適性が無属性魔術の増幅に大きく傾いていて、腕輪の無属性魔法を増幅したといったところでしょうか。それか腕輪という形状自体がテイラー様の能力の鍵となっていた、いやそれはないですね」
つまり、俺以外には魔法剣を使えるようになる効果はないということだろう。それなら固辞するのも迷惑かもしれない。
「ありがとう! お礼に俺が出来ることなら何でもする!」
すいっとコリンが横から出てきて要望をいう。
「それじゃああたし達の町を占拠してる山賊を追っ払うのを手伝ってくれない?」
「もちろん! お安い御用だ!」
考えなしに同意したのだが、クラウディアがコリンを叱りつけた。
「コリン! 人の好意に付け込むようなことはやめなさい。そもそも、テイラー様は私たちの命の恩人なのですよ。恩人を死地に連れ込むような真似はできません」
コリンはショックを受けつつ、涙ながらに反論する。
「でもさ、このままだとあたしらの町は奴らのものになっちゃうよ。クラウディア様だってそれがわかってて、冒険者や軍に頼るために町を出てきたんじゃない」
「うっ、それは……」
言葉に詰まり、クラウディアまで涙目になってしまう。
二人の暗い空気を吹き飛ばそうと、わざと大声を出して二人に話しかけた。
「まあまじめな話だ! 恩人が困ってるっていうのに見捨てるような薄情なことはしないつもりだ。俺の実力はさっき見せただろう?山賊退治は俺にも手伝わせてくれ」
「さっすがテイラーさん、話が分かるッ!」
コリンはさっきまでの涙を拭いて、笑顔で喜ぶ。
それでも、クラウディアはなおも渋い顔をして話す。
「違うんです、テイラー様。私たちの町を占拠しているのは、ただの山賊ではありません。この国、フェンネア国勇者パーティの元盗賊、タイガー。それが彼らの頭領の名前です。ただの山賊とは比べ物にならない危険な相手なんです」
勇者パーティの元盗賊という言葉を聞いて、なぜだか俺の中に怒りが沸き上がるのを感じた。
「問題ない。勇者パーティだろうと、いや勇者パーティだからこそ、人を助けるべきなんだ。間違ったことをしたらどうなるか、そいつらに思い知らせてやる。
山賊退治は、俺にも手伝わせてくれ!」
◇◆
戦闘するとなったら、まずは相手の戦力を知らないとな。
「いくつか確認をしたい。まずはどうやって占領されたのか教えてくれないか?」
「奴らは昼間に正面から攻めてきた。パニックになった住民の避難誘導と迎撃に、衛兵と町長のペクト様が手分けして出たんだけど、そこをタイガーが襲ってきたんだ。そのときはあたしとクラウディア様もペクト様に同行してたんだけど、三人がかりなのにタイガーには勝てなかった。
ボロボロになるまで戦ったペクト様を抱えて逃げたんだけど、そこからはあっという間に占拠されちゃった」
「混乱を誘ったうえで、混乱の対処のため手薄になったリーダーを取る。戦術として筋の通った手だな。
相手の戦力と居場所をわかる範囲で教えてくれ」
「逃げ延びた町人と一緒に調べたのですが、彼らは町長の屋敷を根城にしていて、あまり人数は多くありません。ですが、町長のペクトお父様と私を人質にしたと喧伝していて、町の人は手を出せない状態になっています」
クラウディアは町長の娘だったのか。なるほど、彼女の立ち振る舞いを見ていると合点がいく。
しかしクラウディアの言葉には矛盾がある。今クラウディアはここにいて、町長のペクトさんも今の話だと逃げ延びたはず、そうか。
「ああ、なるほど。人質に取ったっていう喧伝自体が嘘か」
急襲による混乱もあって行方が分からないんだ、山賊どもに人質にしたといわれれば信じざるを得ないだろう。
そうなんだよ、とコリンは空を仰いで同意する。
「だから、クラウディア様達が名乗り出れば町の人も動けるようになるだろうけど、そのタイミングでまたタイガーが急襲してきたらと思うと、なかなかね」
先ほどの話からして、タイガーはかなり強い。名乗り出た時に急襲されて本当に人質にされてしまえば、今度こそ打つ手はなくなるだろう。
「名乗り出た時のタイガーの急襲をしのげれさえすれば、町の人と合流して数で有利に立てるんです。ですから、その時だけテイラー様に協力していただければ……」
「いや、一つ思いついた。奴らには、本当は人質なんていないんだろ? それなら、町に被害を出さずに解決できるかもしれない」
俺は笑ってそう言った。