魔法剣を使えた。
「そういえば、先ほどの戦闘でテイラー様に属性強化を付与しようとしたのですが、どうして強化が掛からなかったのでしょうか?」
やっぱりそれが気になっていたか。
クラウディアには不思議だったかもしれないが、俺にとってはいつも聞かれてきたことなので、慣れた調子で説明する。
「俺には四属性のどの強化魔法も付与できないそうだ。勇者パーティの呪文使いに言われたから、ほぼ間違いない。攻撃魔法は普通に食らうんだけど」
「……テイラー様、いくつか強化魔法を使ってみてもよろしいですか?」
「いいよ。意味はないと思うけど……」
クラウディアは一工程で火と風の複合強化魔法を発動させる。これだけでも彼女が一流魔導師ということがわかるが、彼女の強化魔法も俺の体に触れると霧散してしまう。
俺にとっては見慣れた光景だが、彼女は興味深そうに見つめた後、
「弱体魔法は効きますか?」
「普通に効く。我ながら残念な体質だよ」
「なるほど、なるほど。弱体魔法が効くなら、もしかしたら……」
クラウディアは虚空から透明なリングを取り出し、俺に渡してきた。
「これは?」
「無属性の、対象にかかる重力を増減させる強化を付与した腕輪です。
強化魔法が効かないけれど弱体魔法が効くというのなら、弱体魔法として扱われる無属性の強化なら効くのではないか、と思ったのですが……
先ほど助けていただいたお礼として、よろしければ受け取ってもらえませんか?」
「そうか、ありがとう。早速使ってみるよ」
気持ちは嬉しいけれど、性格はともかく『四大元素』のスキルを持つドミーでも、俺の体質はどうにもできなかった。まあ無理だろうなと思いながらも、腕輪に軽くなるよう念じた。
その瞬間剣が光ったと思うと、俺は宙に浮いていた。
もしやと思い光る剣で手近な大木を斬りつけたところ、真っ二つに斬られた大木の上半分まで宙に浮きだした。
間違いない。これは魔法剣だ!
◇◆
地面に降り立った俺は、感極まって泣いていた。
「まさか、まさか俺が魔法剣、を使える、時が来るなんて、うぅっ」
「だ、大丈夫ですかテイラー様!? どこか痛めましたか!」
駆け寄ろうとしたクラウディアをコリンが制する。
「クラウディア様、こういう時はそっとしておくもんです」
勇者パーティから追放された時、一番理不尽だったのはバーナードだったが、一番心を引掻いてきたのはドミーの言葉だった。
――「魔術も魔法剣も使えねー、バフもロクにかからねー、ロクにダメージも与えられねー三ナシの雑魚テイラーのくせによ!」――
俺は位置取りを工夫するなどして、彼らの盾として貢献をしてきた。それでも、スキルや攻撃面では役に立たなかったことは事実。
いいがかりも含まれてはいるが、確かにその通りだとあの時俺は思った。
俺が弱いから、俺には才能がないから、あのときドミーは俺を追い出すのに賛成したのかもしれない。
しかし、そんな俺にも魔法剣を使えた。
彼女たちのやり取りも、木々のさざめきも、鳥の鳴き声すら魔法剣を使えた自分を祝福してくれているように感じる。