勇者パーティを追い出された。
「テイラー、お前をこの勇者パーティから追放する」
魔王幹部との戦いのために開いた作戦会議の中で、勇者パーティの剣士である俺、テイラーは、勇者バーナードからその言葉を受けた。
俺は突然受けたその言葉を、何とか理解しようとする。
「……はい? いきなりどうしましたバーナードさん。
俺に、追放されたふりをして幹部の側に偽降伏する、苦肉の策を行ってこいってことですか?」
バーナードはいらだった口調で、俺の理解を一蹴する。
「クニク? 訳のわからんことを。俺は、『お前をこの勇者パーティから追放する』と言ったんだ。『運命には何人たりとも逆らうことはできない』!」
勇者バーナードが持つスキル、『運命指定』が発動する。これにより指定した出来事は運命によって必ず起こるというスキルだ。
ネスク王国の勇者志望どころか、隣国の勇者のスキル全部が束になっても敵わないだろう強力なスキル。
彼をネスク王国の勇者たらしめる強力なスキルだ。だがどうしてそれを俺に使うんだ?
「いったい、何でこんなことを」
苦肉の策としては、どう考えてもやり過ぎだ。もし俺がパーティに所属し続けたり、一度追放されたから良しとして直ぐに出戻りしたりしたら、彼のスキルによって『運命に殺されて』しまうだろう。
「理由など決まっている、まだ分からないのか?」
まさか、俺が裏切り者だとでも思ったのか? それとも何か敵のスキルで操られている?
もしかして、四大属性の魔力が適合せず、魔法剣も使えないし強化も受けられない俺は必要ないということだろうか。
そう考える俺にバーナードは、斜め上の理由を告げる。
「やれ物を買ったら金を払え、人にぶつかったら謝れだ。俺は勇者だというのにそんな庶民のような真似ができるか、雑魚が俺に尽くすのは当然だろうが。
お前が居ると窮屈で、ずっと邪魔だと思ってたんだ」
「そうだそうだ、一人軍事教育受けてるからって、意味わからんこといってえばりやがって! 魔術も魔法剣も使えねー、バフもロクにかからねー、ロクにダメージも与えられねー三ナシの雑魚テイラーのくせによ!」
呪文使いのドミーは、運命に同調して俺を貶してくる。
「……何言ってる、んですか。テイラーさんが被害を一手に受けているから、私たちは戦えてるんでしょうに。これから魔王幹部と戦うのに、盾がなくて、どうするんですか」
回復術師のセレナは、運命に逆らう恐怖に怯えながら、擁護する言葉を絞り出してくれた。
しかしそんな彼女をバーナードはあざ笑う。彼の口から出てきたのは、またもや想像の斜め上の言葉だった。
「考え違い甚だしいな。俺は魔王など倒さんぞ。なぜ俺が雑魚のために危険を冒さねばならん。
そうだ、煩い邪魔者がいなくなるのだから、適当な国を奪って王になるのもいいかもしれん。急な思い付きだが悪くはないな。
そのためにも、邪魔者は排除しておこう」
バーナードが俺に斬りかかってきた。
◇◆
バーナードの一手目横薙ぎを勢いを利用して払いのけ、二手目雷の魔法剣の振り下ろしを距離を取って躱す。こちらからの反撃の一手はドミーのスキル『四大元素』の間合いに入ることを警戒して、放棄せざるを得なかった。
技術や力こそ、純粋な戦士であるこちらが上をいっているが、彼には各属性の魔法剣がある。
そのうえ、勇者に協力するのは当然といった顔をして、ドミーがバーナードの援護を行っている。
「『目に見えるものだけが信じられるもの』って、あっ!」
二対一となったこちらを見かねてセレナがスキルを発動させようとするも、勇者パーティの敵になってしまった俺を援護する行動は、運命に抵触して不発に終わる。
自然、こちらは防戦一方になる。
「ちっ、面倒臭い」
お互いに攻撃の入らない、決定打のない展開にバーナードが焦れてきてしまう。俺にとってバーナードがいらだってしまうこの展開は実にまずい。
勝負を決めようと溜めをつくって攻撃を繰り出そうとするが、
「もういい、お前の相手も飽きた。『お前は痺れて動けなくなる』、『指定』!」
バーナードによって運命が指定された瞬間体が動かなくなり、彼の攻撃をもろに食らってしまう。
◇◆
「ざまあないな。這いつくばって無様なことだ」
バーナードが嘲る。
「ほんとだぜ、ザコ村人にも金を払え、敬意を持てってさ! 力でネジ伏せちまえば良いのに、バッカじゃねーのって思ってたんだよな!」
ドミーが右半身を蹴ってくる。
「雑魚に不釣り合いなお前の金も、剣も俺達勇者パーティが有効利用してやる。有り難く思え。さて、こいつを殺しておかないとな。しかし、後始末も血糊を落とすのも面倒臭いな」
バーナードが面倒臭そうに剣を抜くのを見て、セレナが名乗りを上げた。
「……わかりました。それでは彼は私が『運命に誓って適切に処理しておきます』。お二人の手は煩わせません」
バーナードの能力は他人が運命に対して誓ったことすら、彼が望めば強制することが出来る。セレナはああ言った以上、俺を殺すしかないだろう。
「そうか。奴をかばうようなことを言っていたから殺してやろうかと思っていたが、『運命』に従うのならいいだろう、生かしておいてやる」
「……ありがとうございます」
セレナのその言葉を聞いたのを最後に、俺は意識を失った。