その⑦
「う、嘘だ……! 嘘だ、嘘だ!」
ぼくのせいだ。
ぼくが余計なことをしたせいで、おばさんは死んでしまった。
おばさんの言う通りに逃げておけば、おばさんは死なずに済んだかもしれないのに。
「ああ……ああ……」
気がつけばぼくは走り出していた。
襲撃者たちに殺されたくないから?
違う。
ぼくのせいでおばさんが死んだという事実から逃げるためだ。
目の前がかすむ。
いつの間にか流れ始めた涙が止まらない。
ぼくのせいだ。
ぼくのせいでおばさんは。
ぼくがやってしまったのだ。
ぼくが――!
「うっ!?」
木の根元に躓き、ぼくは倒れこんでいた。
ひどく膝を打った。動かすたびに痛む。
でも、逃げなければ。
ぼくは立ち上がろうとした。
が、同時に右肩に激痛と衝撃が走り、再び地面に叩きつけられた。
今まで感じたことのないような鋭く熱い痛みと共に、右肩より先の感覚がなくなった。
恐る恐るそちらを見てみると、僕の右肩はまるで金槌か何かで打ち砕かれたみたいにぐちゃぐちゃになっていて、露出した骨が月明かりに照らされた。
その先の右腕は糸の切れた人形のようにぶら下がっているだけで指先一つ動かせない。
「あ、ああ……!?」
どうして?
どうしてぼくがこんな目に?
あいつらはどうしてぼくをこんなひどい目に遭わせようとするんだ?
地面がやけに冷たかった。
僕が動けなくなっているのを見越したように複数の足音が近づいて来る。
全身を黒い装甲で覆った、襲撃者たちだ。
その右手には、おばさんを襲ったあの筒状の武器が握られている。
恐らく僕の肩はあれで狙撃されたのだろう。
「目標を確認。これより排除に移る」
襲撃者の一人が、誰かに報告するように言う。
それを合図に、襲撃者たちは棒状の武器を一斉に僕めがけて構えた。
ダメだ、動かなければ死ぬ。
それなのに体は言うことを聞かない。力が入らない。
相変わらず右肩は焼けるように熱く、そこからとめどなく血が流れだしているのが分かる。
「ど、どうして……どうしてぼくらを……」
震える唇で、ぼくは何とか言葉を絞り出した。
すると、襲撃者が一人、武器を構えたまま僕に近づいてきて、言った。
「すべてはお前の両親が原因だ。恨むなら奴らを恨むんだな」
両親?
顔も忘れてしまった、ぼくの両親?
あの人たちのせいで、ぼくらは殺されようとしているのか?
ぼくらはただ、森の奥で静かに暮らしていただけなのに?
「ぼくが……」
「全員、構え」
襲撃者たちはぼくへ向けて武器を構え直す。
だけど今は、そんなこと関係なかった。
ぼくの心の中に、黒くてドロッとしたものが生まれるのを感じた。
「ぼくが、何かいけないことでもやったのか?」
襲撃者たちの武器が一斉に火を噴いた。
血が熱い。
誰かを殺したい。
ぼくを殺そうとする全員を、今ここで殺したい。
――不意にぼくの体が軽くなった。
ぼくの中の殺意が、ぼくを中心に拡散していったような気がした。
その瞬間、ぼくの意識は途切れた。
――そしてぼくが再び目覚めた時、襲撃者たちはただの血と肉の塊となって、ぼくの周囲に散らばっていた。
ぼくは赤い血だまりの中に、ただ一人で突っ立っていた。
「……え?」