その⑬
※
結局ドゥーエちゃんと一緒に風呂に入ることはなく、ついにCクラス戦の日がやってきた。
俺達はDクラス戦のときと同じように会場で集合した。
「真白、先鋒はあなたよ。心の準備はできているのかしら?」
「うん。まあ……」
「なんですの、そのぼんやりした返事は? 集中力が足りてないんじゃない?」
「いやそういうつもりじゃないんだけど、ちょっと客席を見てよ」
「客席?」
神奈崎が視線を俺から客席の方へ移す。
客席の一部、Eクラスの応援旗が上がっているあたりには数人の集団ができていた。
その中の、応援旗を掲げている男子生徒がこちらに大きく手を振る。
「おう、不良少年! 応援団を集めてきたぜ!」
発動木ジン君だ。
「応援団って言ったって、十人もいないじゃないか」
「そう残念がるなよ! このまま勝ち進めばこの会場中をEクラスの応援で埋めつくすことだってできるかもしれないぜ!」
それは無理だろう。
だって、そんなにEクラスに人数はいないわけだし……。
「見なさい、真白。あれはDクラスだわ」
神奈崎に肩を叩かれて、俺はようやく客席の片隅にいるDクラス――つまり、俺たちが先日戦った相手がいるのに気が付いた。
「俺たちの応援に来てくれたのかな?」
「それとも、自分たちを倒した相手が倒される姿を見に来たのかもしれませんわね。ま、たとえそうだとしたら、彼らにとって残念なものをお見せすることになるでしょうけどね。なぜならわたくしたちは負けませんから」
すごい自信だ。
むしろ、これだけの自信がなければ勝てないのかもしれない。
俺も自信を持って戦おう。
「よし分かった。とりあえず俺が初戦を取るから」
「……大丈夫ですの?」
「大丈夫だよ」
こんなところで負けるわけにもいかないし。
神奈崎とユイに目配せをして、フィールドの中央へ進んだ。
Cクラスサイドからこちらへ歩いてきたのは、セカイとジン君の情報通りヴィーラさんだった。
「あなたが私の対戦相手?」
「ああ、よろしく」
「良い勝負をしましょうね」
「こちらこそ」
対戦開始のブザーが鳴る。
「じゃ、こっちからいかせてもらうわよ」
いうが早いかヴィーラさんの周囲に炎のヴェールが出現した。
俺は咄嗟に一歩引きさがり、相手から距離をとった。
「炎の壁……⁉」
「あなたの行動パターンは研究させてもらったわ。魔法で草木を操り、相手の動きを止めてから攻撃するのが主な戦術ね。なら、こうすればあなたの魔法は無効化されるんじゃない?」
炎の中からヴィーラさんの声がする。
「確かに言う通りだけど、その状態で君はどうやって俺を攻撃するわけ?」
「簡単よ。こうするの」
炎の壁が爆ぜた。
壁の一片一片は火球になって、俺に襲い掛かった。
「―――っ⁉」
反射的に魔法を発動させ、木の壁を作り敵の攻撃を防ごうとした。
だけど、そんなものは高速で迫りくる炎の塊の前にはほとんど意味はなく、ギリギリのところで攻撃の軌道を変えて直撃を防ぐことくらいしかできなかった。
これも情報通りだけど――ヴィーラさんの魔法がここまでの威力とは思わなかった。
Cクラスも侮れない。
侮れないどころか、このままじゃ打つ手がない。
あの炎の壁をどうにか突破しなければこっちが一方的にやられるだけだ。
しかし、どうやって?
……いや待てよ、そもそも俺が何かする必要があるんだろうか?
「動きが止まっているわよ!」
気が付けば俺の目の前ギリギリに迫っていた火球を、体を捻って躱した。
火球はフィールドの壁にぶつかって四散した。
壁の一部には焦げ付いたような跡が残った。
あれだけの熱量を持った炎なら……。
俺は地面からツタを生やし。ヴィーラさんめがけて放った。
しかしツタは炎の壁に阻まれ、焼き尽くされた。
「…………」
「無駄よ。そんなチャチな攻撃じゃ私の魔法を破ることはできないわ」
炎の中からヴィーラさんの声がした。
「そうかな?」
「そうよ」
「どうだろうね?」
再びツタでヴィーラさんの炎の壁に挑んだけれど、俺の魔法はあっけなく灰にされた。
それどころか、さっきまでの数倍の火球が俺めがけて飛んできた。
今度は捌ききれない。
俺は後ろに飛んで体勢を整えようとしたけれど、火球の追撃に遭って、その衝撃のまま後方へ弾き飛ばされた。
「ほらね、だから言ったじゃない」
炎の壁が解かれ、ヴィーラさんの姿が見えた。
「確かに俺の草木を操る魔法じゃ君の炎の壁は破れなかったかもしれない」
「……何が言いたいの?」
「だから、待つだけでよかったんだ。フィールドを焼ききってしまうような熱量を持った炎の壁に囲まれた君が、熱さに耐えきれず壁を解除する瞬間を」
「!」
ヴィーラさんの表情に動揺が走った。
その瞬間、俺はフィールド中に仕込んでおいた種を一斉に発芽させた。
無数のツタがヴィーラさんに襲い掛かる。
というか、襲い掛からせたのは俺なんだから今の表現には語弊が……まあ、そんなことはどうでもいいか。
ツタはヴィーラさんの体を雁字搦めにしてその動きを止めた。
「さて、降参するなら今のうちだけど」
「誰が降参するのよ。たかが動きを止められただけだわ」
「フッフッフ、いつまでそんな口が利けるかな?」
俺は立ち上がり、一歩ずつヴィーラさんに近づいた。
っていうかこの序列闘争って、何がどうなったら勝ちなんだ?
どうやら相手に負けを認めさせるか、相手を行動不能にしたら勝利みたいなんだけど。
しかし無抵抗の相手に攻撃するのも気が引けるような……。
「真白! 油断しちゃいけませんわ!」
戦闘フィールドに神奈崎の声が響いた。
我に返った俺は、腹部に灼けたような痛みがあるのに気が付いた。
「な……」
「何を驚いたような顔をしているの? 両手両足が使えなくなったからって、魔法が使えなくなるわけじゃないでしょう?」
貫かれた。
あの火球をまともに喰らってしまった。
俺は思わず膝をついた。
「全く……こんなことになるなんてね」
胃の方から苦い何かが込み上げてくる。
多分、血だろう。
会場がざわついている。
客席から見てもわかるほど、俺の体の状態は悪いらしい。
死ぬのか―――っていうか、いつかこんなことになるんじゃないかとは思っていた。
そりゃあ、魔法を覚えたばかりでろくに制御もできないような子供同士で戦ってしまえば、命に係わるような事態にもなるだろ。
あの学園長って女の人、案外頭悪いんだな……。
朦朧とし始めた意識の中、俺はそんなことを考え始めていた。
そして、体が徐々に軽くなっていくのを感じた。
―――マズい。
このままじゃいけない。
また――あの力が発動する。
人殺しの力が。




