その⑤
「嘘だろ……!?」
作り物の映像を見ているみたいに、僕らの家はゆっくりと崩れていく。
どこかに引火したのか、瓦礫の山になった家のあちこちから火の手が上がり、いつしか家全体を包む大きな炎になった。
僕らがリビングに残っていたなら、今頃――。
「大丈夫、エル君」
僕を押し倒していたのはニィおばさんだった。
おばさんは、何かから僕を庇うように、僕に覆い被さっていた。
「大丈夫だよ。怪我もしてないみたいだし。でも、ぼくらの家が……」
「向こうもなりふり構わないつもりなんだよ。急いで。見つかったら確実にあたしたちを殺しに来る」
おばさんが残骸になった家を睨みつける。
「本当は、ここでエル君とずっと暮らすつもりだったのにね」
「おばさん……」
「でも、生きていれば大丈夫。行こう、エル君」
おばさんは悲しそうに笑いながらぼくから離れた。
ぼくも体を起こそうとしたのだけど、すぐにおばさんから体を押さえつけられた。
「な、何!?」
「……やっぱりダメ。見つかったみたいなんだよ」
ぼたっ、と重たい音がして、ぼくの頬に何かが落ちて来た。
生暖かいそれは、触ってみると赤黒い色をしていた。
―――血だ。
「ニィおばさん……!?」
「このままだと二人とも殺される。エル君は逃げて」
おばさんは囁くような声で僕に言った。
ぼくらを襲う何者かに見つからないようにするためなのか、それとも――声も出せないような傷なのか。
「そんな、おばさんをおいて逃げるなんて」
「あたしは大丈夫。いい、エル君。森を抜けた先に町があるのは知ってるよね? 真白さんはそこに住んでいるから。そこまで逃げれば大丈夫だから」
「で、でも」
「いいから急いで。走って逃げて。あたしは大丈夫。必ず後で落ち合うんだよ」
そう言っておばさんは立ち上がり、火に包まれた小屋の方へ走って行った。
それを追って複数の黒い影が動いていくのが、ぼくには見えた。
どうすればいい?
おばさんは、多分怪我をしている。あの人影の中の誰かに攻撃されたのだろう。
おばさんの血はまだ、ぼくの頬にこびりついている。
このままだとニィおばさんは殺される。あんな大勢に追われて無事でいられるはずがない。
だとしたら。
あの中の何人かくらい、ぼくが引き付けて見せる。