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その㉚


「エル君、痛いんだよ」


 呻くような声に我に返った俺は、腕の中でドゥーエちゃんがしかめ面をしているのに気が付いた。


「あ、ご、ごめん。つい力が入っちゃって。それよりもドゥーエちゃんは大丈夫なの? 怪我はないのか?」

「うん、あたしは大丈夫なんだよ。それよりエル君は? すっごく高いところから落っこちてたけど」

「俺は大丈夫。小さい頃はめちゃくちゃ高い木から落ちたこともあるんだよ、俺」

「バカと煙は高いところが好きってよく言うんだよ。深い意味はないけど」

「……ドゥーエちゃん、君を助けたのは俺なんだけどなあ」

「それに関しては感謝してるんだよ。ありがと、エル君」


 そう言うとドゥーエちゃんは首を伸ばし、その唇を俺の頬にあてた。

 柔らかい感触が俺の頬に伝わった。


 ――あれ、これってアレか?

 もしかしてキス的なやつか?


 俺が何か言おうと口を開いた瞬間、絶叫が聞こえた。

 見ると神奈崎が真っ青な顔をしてこっちを見ていた。


「そんな幼い子と不埒な行為を……っ!? ふ、不潔ですわ……っ!」

「ち、違うだろ神奈崎。別に今のにそんな変な意味は――ドゥーエちゃんも何とか言ってくれよ!」

「うーん、キスっていうのは好きな人にするものなんだよ。今のはあたしの愛を伝えたつもりなんだよ」

「ほらぁっ! やっぱり不潔ですわぁっ!」

「だから誤解だ! 誤解なんだ!」

「……エル君、ひょっとしてあたしのこと嫌いなんだよ?」


 しょんぼりしたような顔でドゥーエちゃんが言う。

 俺は慌てた。


「ち、違う、そういう意味じゃ、だけどほら、神奈崎が! 妙な誤解を!」

「ついに幼女とイケない関係になってしまったっすね、アニキ」


 背後で囁くように言ったのはセカイだ。

 俺は背筋に鳥肌が立つのを感じた。


「お、お前いつの間に」

「ピンクな展開にウチはつきものっすよ。ようこそ変態(こっちがわ)の世界へ、アニキ」

「いやだあああ! 一緒にしないでくれえええ!」


 と、その時。咳払いが聞こえて俺たちの漫才パートは唐突に終了した。


 咳払いをしたのは、もちろんと言うべきかロット先生だった。


「あー、盛り上がってるところ悪いが事情を説明して貰おうか。色々聞きたいことがあるんでな」


 ……ここまでバッチリドゥーエちゃんを見られては言い逃れできない。


 俺たち三人――いや、ドゥーエちゃん含め四人はそれぞれに目配せをして、説教される覚悟を決めた。





 あのよく分からない事件から一夜明け、再び平日――つまり、授業のある日がやってきた。

 不審者のことなんてなかったかのように一日が終わり、俺達は自分たちの部屋に戻ろうと校舎を出た。


「なんか、昨日も一昨日も休めた気がしないっす……」


 げんなりした様子で言うセカイの目の下には隈が出来ていた。


 結局、昨日はロット先生に数時間説教を(主に部外者を無断で学校に入れてはいけないこと、自衛以外で魔法を使ってはいけないこと、不審者を見かけたらまず教員や学校の関係者に知らせること――等について)受けた後、ようやく部屋に帰り着いた。


 その頃にはユイも戻ってきていて、僕ら三人がぐったりしているのを不思議そうな顔で見ていた。


 くそー、運のいい奴め。


 ちなみにドゥーエちゃんは彼女の身元が明らかになるまではロット先生の家で預かることになったという。そして、それが分かり次第送り返すそうだ。

 ドゥーエちゃんが言っていたお兄様というのが誰なのかは分からなかったが、まあ、分からないものはいくら考えたって仕様がない。今はあの子が無事に家へ帰れることを祈ろう。


 誰なのか分からないと言えば、あのローブの人物の正体だ。

 よく分からない力を使っていたし、そもそもドゥーエちゃんを使って何をするつもりだったんだろう。


 あいつの正体についてドゥーエちゃんに訊いてみても、良く知らないの一点張りだった。ついてこいと言われたからついて行った、ということらしい。


 うーん、世界を変えるとかなんとか言ってた気がするけど、どういうことだったんだろう。


 ――まさか、『彼岸』と何か関係があるのだろうか。

 あり得ない話じゃない。思い返してみれば、あのローブの人物の雰囲気も『彼岸』の連中とどこか似ていたような気がする。


 しかし――まだ、『彼岸』と戦う時じゃない。

 俺はまだ強くならなきゃいけない。

 ニィおばさんの復讐をするためにも。


「どうしたの、真白。怖い顔をしていますわよ」


 神奈崎の声に、俺は我に返った。


「あ、いや、何も。ちょっと考え事をしてたんだよ。あのローブの奴は何者だったのかなあ、とかさ」

「そうですわねえ、男か女かも分かりませんでしたものね……」


 じっと考え込む神奈崎。

 その横では、ユイがいつも通りの顔で立っている。


「そういえば、ユイはどこに行ってたんだ?」

「私ですか? 私はドゥーエちゃんのお兄様って人を探すために寮の中を駆けずり回ってたんですよ。そうしろって言ったのはエルさんじゃないですか。やだなあ、忘れちゃったんですか?」

「ああ、そう言われたらそうだったかも」


 部屋に戻ると、そこには小さな人影があった。


「ドゥーエちゃん!」


 そう叫んで真っ先に人影に駆け寄ったのは神奈崎だった。


「わ、いきなりすぎるんだよ」

「やっぱり私たちのところに戻ってきてくれたんですのね!? もう離しませんわよ!」


 神奈崎はドゥーエちゃんを抱き上げ、頬ずりをする。

 だけどドゥーエちゃんはロット先生のところで預かられるんじゃなかったのか?


「どうしてここにいるんだ、ドゥーエちゃん?」


 俺が訊くと、ドゥーエちゃんは神奈崎から顔を俺の方へ向けて、


「簡単なことなんだよエル君。遊びに来ただけなんだよ」

「遊びに来た?」

「そう。だって、あの人の奥さんが変な人すぎるんだよ。アオちゃんも無口だし」


 アオちゃんといえば、ロット先生の娘の斬沢アオのことだろう。

 成績優秀でAクラスの代表生徒だ。


「理由なんてどうでもいいことですわ、真白。こうして可愛い可愛いドゥーエちゃんがわたくしたちのところに来てくれたのは嬉しいことに違いありませんもの。ねー、ドゥーエちゃん」


 ドゥーエちゃんの黒髪を撫でまわす神奈崎と、それに鬱陶しそうな顔で耐えるドゥーエちゃん。


「いやー、ロリがいると部屋の中が明るくなるっすねえ、アニキ」

「……さわやかな感じで言ってるけど、それ、そこそこ問題発言だからな、セカイ」

 とにかく、ドゥーエちゃんの事件はこの辺りで幕を閉じさせてもらうことにしよう。

 俺達が彼女のお兄様という人物の正体を知るのはずっと後の話である――多分。





読んで頂いてありがとうございます!


これにて第三話が完結です!


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