その㉒
「気まぐれで冷たくされると、こっちも大変っすよねー。うう、寒」
セカイが体を震わせる。
明け方でまだ日も出ていない時間だから、床の冷たい廊下は確かに寒い。
「セカイも毛布に入る?」
「え、良いんすか?」
「ほら、来いよ」
「うう、さすがアニキ、人情味あふれる男っすね!」
俺が毛布を羽織りながらドアの傍に屈むと、セカイは這うようにして俺に体を寄せて来た。
それから壁を使って器用に起き上がり、俺の方に体を預けた。
ちょうど、俺の肩にセカイが頭をのせるような形だ。
俺はセカイに毛布を半分かけてやって、それからふと気づいた。
セカイの体って、なんか弾力があって柔らかいよな……。
髪とかいい匂いするし……。
「あれ、どうしたっすかアニキ?」
セカイの大きな瞳が俺の顔を見上げる。
俺は慌てて視線を逸らした。
「い、いや、なんでもないよ」
「ほんとっすかー? 心なしか顔が赤いっすよ?」
「赤くねえよ!」
妙なことは考えないようにしよう。
こいつは男だ。
男なんだ!
「ねえ、アニキ……」
妙に艶っぽい声でセカイが俺に囁く。
「な、なんだよ」
「ウチ、縛られっぱなしで苦しいっす。そろそろ縄を解いて欲しいっす」
「あ、ああ、そうだよね。分かった、じっとしてろ」
「優しくして欲しいっす」
「うるさいな、黙ってろよ」
そして俺が縄に手を伸ばした瞬間、
「ひゃんっ!?」
「へ、変な声出してんじゃねーよ! 縄がほどけないだろ!?」
「あ、アニキー、ウチが動けないからっていきなりそんなところ触っちゃダメっすよ……」
そんなところって!? どこ!?
マズい、ちょっと訳が分からなくなってきてる。
俺はひとまずセカイの声は無視して、その体に縛り付けてあった縄を取り去った。
「……うー、優しくしてって言ったのに」
「ちょっと待って欲しい。その言葉は誤解を生む」
「そういやユイさんどこにいったんすかね? アニキ知りません?」
「セカイが知らないのに、俺が知ってるわけないだろ」
「確かにそうっすね。どこ行ったんだろう。トイレかな?」
「さあ……」
なんて言ってると、廊下の向こうからユイが戻って来た。
「あれ? お二人ともどうしたんです? 仲良しですねー」
「神奈崎に追い出されちゃったんだよ。ドゥーエちゃんと一緒に寝るからって」
「なるほどー、それは災難でしたねー」
うんうんと頷きながら、ユイは何事もなかったように部屋の中へ入って行った。
かと思えば、すぐに布団を持って戻って来た。
「せっかくなので私もここで寝たいと思います! 三人でキャンプ気分です!」
キャンプ気分ってこんな嫌な気分だったのか……。
どうせなら俺たちを部屋に入れてもらえるよう神奈崎に言って欲しかったのだけれど。




