その⑳
「やっぱりエルくんも思春期の健全な少年なんだよ。あたしのわがままボディに道徳観念を狂わされてしまったというのならそれは仕方のないことなんだよ」
「寸胴ボテ腹の幼児体型のくせに……」
「ナイスバディと言って欲しいんだよ」
「とにかくみんな落ち着いてよ。セカイならともかく俺がそんなことをするわけな――」
次の瞬間。
俺の顔面には枕が直撃していた。
「ふっ、不潔ですわっ! 卑猥ですわっ! 破廉恥ですわっ!」
息を荒くしながら、信じられないとでも言いたげな顔で神奈崎が俺を見る。
その手には枕の次弾が装填されていた。
「いやだから誤解なんだよ。朝起きたらこうなってたってだけで」
「つ、つまり、寝ぼけた真白がドゥーエちゃんに襲い掛かったということですのね!?」
「俺の話を聞けーっ! ぐわっ!?」
再び俺の顔面を強襲する枕。
痛みと共に、ぶつかった衝撃で枕の香りが俺の周囲に広がった。
あれ? なんかいい匂い。そりゃそうか、きっとこの枕は神奈崎が毎晩頭をのせて眠っている枕だから……って、今この状況でそんなことを考えているようじゃ、俺が本物の痴漢と化してしまう日もそう遠くないだろう。
「むぐむぐむぐ! むぐむぐ!」
部屋の隅から奇妙な声が聞こえた。
見れば、両手両足を縛られた上に猿轡をかまされたセカイが何かを訴えたそうにその身を悶えさせていた。
セカイの瞳には何か強い意志が感じられた。
「セカイ……?」
俺の声に力強く頷くセカイ。
よし、今はこいつの言葉に賭けてみよう。
「ユイ、セカイを喋れるようにしてあげてもらえる?」
「は、はい」
ユイがセカイの猿轡を外すと、セカイは堰を切ったようにしゃべりだした。
「いいなあアニキ! ドゥーエちゃんと一緒に寝るなんて! ウチもご同伴にはず借りたいっす! そして幼女のほっぺたを嘗め回したいっす!」
「ユイ、こいつをもう一度縛り上げて部屋の外に放り出してくれ」
「はい」
「い、いやいやいやいや今のは冗談っすよ冗談! ウチは見たっす! アニキが無実である証拠を!」
「へえ、聞かせてもらうよ」
「それは夜中のことっす。レエネお嬢のベッドから降りたドゥーエちゃんが自分からアニキの布団に入って行くのをウチは見たっす!」
なかなかの有力証言だ。
「で、お前はどうしてそれを見たんだよ?」
「それはもちろん、隙あらばドゥーエちゃんのお腹に顔をうずめるため……はっ」
何かに気付いたように顔を上げるセカイ。
「……セカイ、君は良い友人だったが、君の迂闊なところがいけなかったのだよ。ユイ、あとは頼む」
「分かりました」
「は、謀ったっすねええええええ!!」
ユイに引きずられ、セカイが部屋の外へ連れていかれる。
やっぱり倫理上よくないものはゾーニングしなきゃ。




