その⑲
※
朝。
妙な寝苦しさを感じた俺はぼんやり目を開けた。
外はまだ薄暗く、日も昇りきっていない。
いつもならまだ寝ているような時間帯だ。
俺は体を起こして寝苦しさの正体を見極めようとした――が、体が起き上がらなかった。
これが世にいう金縛りというやつか!?
まさかこんな何気ない瞬間に不思議現象と遭遇してしまうとは。
えーと、こういうときどうすればいいんだっけ。魔よけの呪文でも唱えておこうか。
上半身がやけに重たい。
まるで何かが俺の上に乗っているみたいだ。
恐らくは、心霊的な何かが。
「うぅーん……」
その何かがうめき声を上げる。
最悪だ。
なんで俺がこんな目に……。
俺は恐る恐る、うめき声を上げる霊的な何かへ視線を向けた。
どうしよう。こういうのって大概グロテスクな何かだったりするんだよな。
いやだなあ、俺、おばさんの一件以来グロいの苦手なんだよな。もともと好きでもなかったけど。
「う……うぅーん……お兄様、あたしに欲情するなんてロリコンの鑑なんだよ……」
その何かは、俺の腹部から胸にかけて、覆いかぶさるようにして眠っていた。
そう、ドゥーエちゃんは。
「…………」
なんて寝言だ。
ドゥーエちゃんのお兄様という人は、どうやらあまり褒められた人間ではないらしい。
というか、そんなことよりも状況を整理したい。
確か昨晩、ドゥーエちゃんは神奈崎のベッドで寝ることになったはずだ。
ちなみにセカイはどうしてもドゥーエちゃんと一緒に寝るといって聞かなかったから、神奈崎の手によって縛り上げられ、部屋の隅に転がされている。
いや、とにかくドゥーエちゃんは神奈崎のベッドに寝ていなければおかしい。
それがどうして俺の布団の中へ?
……まあ、いいや。
心霊的なものじゃなくて良かった。なんかまた眠くなってきたし、このまま二度寝しよう。
そう思って俺が目を閉じた瞬間。
「……あれ? なんでエルくんがあたしの布団で寝てるんだよ……?」
最悪なタイミングでドゥーエちゃんが目を覚ましたらしい。
「ドゥーエちゃん、それは誤解だ。君が俺の布団に勝手に入って来たんだろ」
「犯罪者はいつも被害者が悪いみたいな言い方をするんだよ。素直に罪を認めれば楽になるんだよ」
「ちょっと待て、冤罪だそれは」
「……あれー? どうしたんですかあ?」
目をこすりながら体を起こしたのはユイだった。
それにつられるように神奈崎もベッドから起き上がる。
「なんですの? まだ寝てても良い時間のはず……」
そして、神奈崎の視線が俺とドゥーエちゃんの方に向けられた。
ちょうどそのとき、ドゥーエちゃんは俺の腰の上に跨っているような体勢だった。
「なっ……何なさってるのですわ、真白……っ!?」
「いや、誤解だ」
俺の言葉を遮るようにドゥーエちゃんが口を開く。
「エルくんがその溢れんはかりの欲求を抑えきれなくなったんだよ」
ああ、そうか。
痴漢冤罪って、こんな風に起こるのか……。




