その⑯
※
「さて、食事の時間ですわ」
食堂の席に座る神奈崎の前には、なぜか数種類のフォークやナイフが置かれている。
一人だけフルコースでも食べるつもりなのだろうか。
今日の夕飯のメニューは確か、焼き魚と卵のスープとかそんな感じなんだけど。
……あれ? 字面だけ見ると高級料理って言われても違和感ないな?
「真白」
「なんだよ、神奈崎」
「食べ物の品位は食べる者によって変わるのですわ。たとえこんな庶民的なメニューだったとしても、わたくしのようなエリートが食せば最高級のコース料理に早変わりですわ。要するに、品の問題ですのよ」
む、むかつくなあ。
だけど殊更間違ったことは言っていないような気もする。
それだけに、余計むかつくなあ。
「はいこれ、ドゥーエちゃんの分」
俺は金持ちオーラを存分に振りまいている神奈崎を尻目に、食器の載ったトレイをドゥーエちゃんの前に置いた。
「わー、なにこれ。初めて見たんだよ」
「初めて見た? 何言ってるんだよ。君の分のご飯だよ」
「ごはん……?」
不思議そうな顔をするドゥーエちゃんに、俺はフォークを渡した。
「まさか今まで食べ物を食べたことがないってわけじゃないよな?」
「うーん、もしかしたらそのまさかかもしれないんだよ」
フォークをグーで握りしめるドゥーエちゃん。
その手つきは、確かに不慣れなようだった。
「困ったなあ。お家の人に習わなかったの?」
「あたしはそういうの、専門じゃないんだよ」
「専門じゃないって言われても……」
仕方ない。
料理をこぼされても片づけが面倒だし、ここは俺が食べさせて――。
「仕方ありませんわねえ。わたくしが食べさせてあげますわ。こちらにいらっしゃい」
「うん」
ドゥーエちゃんはフォーク片手に椅子を降りて、それから神奈崎の膝の上に乗った。
「いいですの、ドゥーエちゃん。フォークはこうやって持ちますのよ」
「はーい」
神奈崎に手を握られながら、ドゥーエちゃんがフォークを持ち直す。
どうやら俺の出番はないらしい。
俺は自分の分のトレイを置いて、二人の向かい側に座った。
「皆さん早いっすねえ」
そう言いながら俺の隣に腰かけたのはセカイだった。
「おや、どうしたっすかアニキ。妙な顔をして」
「案外、神奈崎が面倒見のいい奴なんだよ」
「ははあ、なるほど。彼女の意外な一面を見て心を奪われた的なあれっすか?」
「はは、冗談よせよ」
「でも、こうしてみるとお二人、なんだか夫婦みたいっすよ?」
「下井」
神奈崎の突き刺すような視線がセカイに向けられる。
「それ以上言うと、あなたは深い海の底で永遠の眠りにつくことになりますわよ」




