その⑩
「この子、神奈崎の知り合い?」
「まさか。わたくしにこんな小さな知り合いはいませんわ」
「じゃあなんで神奈崎のベッドで寝てるんだよ」
「わたくしが聞きたいくらいですわ」
「……どうするんだよ」
「どうするって?」
「このまま放っておくわけにもいかないし、誰か先生を呼んでくる?」
「そ、そうですわね。とりあえず担任の斬沢先生を……」
と、そのとき幼女が目を覚ました。
そしてゆっくり体を起こして、寝ぼけたような顔で辺りを見渡す。
それから俺の顔を見て、
「あ、お兄様」
「……お兄様?」
「あら。真白の妹さんでしたの?」
「そんなわけないだろ。俺の両親は――」
「あー、やっぱりお兄様じゃないんだよ」
眠たそうに右手で目をこすりながら幼女が言う。
「ほら、違うってさ」
「でも、どことなく似てますわよ、あなたたち」
「そう?」
俺は幼女の顔を観察してみた。
死んだ魚のような黒い瞳に、病的なまでに白い肌。
「そんなに似てるかな?」
「ええ。目に生気がないところとかが、特に」
「嫌なところが似てるなあ……。ねえ君、名前は何ていうの?」
幼女は目を細める。
「あたしみたいなロリに名前を聞くのは、大概不審者かロリコンか変質者のどれかなんだよ。お兄ちゃんは3つのうち、どれ?」
「……その3つ、意味合いとしては大体どれも一緒だよな。もちろん俺はそのどれでもないけど」
「ふーん。まあ、いいんだよ。お近づきの印に教えてあげる。あたしの名前はドゥーエ。お兄様の妹にしてコピーの完全上位互換なんだよって、あたしはあたしはキメ顔でそう言ってみたり」
「それ、どういう意味?」
「ちょっとしたジョークなんだよ。で、お兄ちゃんの名前は? まさか幼女に名乗らせておいて自分は名前を言わないつもり?」
「……今言おうとしたところだよ。俺の名前は真白エル。で、こっちが」
「神奈崎レエネ。由緒正しき神奈崎家の令嬢ですわ!」
どこからか取り出した扇を広げながら、神奈崎が言う。
「で、えーと、ドゥーエちゃん。そのお兄様って言うのは誰? この学校にいるの?」
「……さあ?」
首をかしげる幼女。
同時に、俺と神奈崎も首を傾げた。
「じゃあ、どうやってこの部屋に入って来たの?」
「お兄様の気配をたどって来たんだよ。だけど、途中で眠くなっちゃったの」
「で、そのお兄様って?」
「……さあ?」
再び首を傾げる幼女。
同時に、俺と神奈崎も再び首を傾げた。
「やっぱり子供に聞いても駄目か。とりあえず先生を呼んでこよう」
「わたくしもそれが良いと思いますわ」




